転成 円卓のフィアナ

【ありがちな世界だけど、僕達は繰り返していく――】 自作の小説を記載、更新は不定期

学生事件簿-5-

作戦実行の夕方。

今の時間は、黒い雲があり既に雨は降っていた。 みな傘を差し、街を行き来している光景。天気予報では夕方から雨が降ると言っていたが、そんなことも知らずに走っていく人もいた。

そんな中、ミファルは傘を差し淡々と家路を歩いていた。

だが、気が付いた。 後ろから少しだが、殺気を放っていることを…。

『 …来た』

昨日通り、奴、卯月が人と人を陰にし歩いている。

銀色の髪、緑色の目が此方を見てる。 彼は傘を差さずに冷たい目で、こちらに近づいてくる。 その姿を横目で見たミファル。

 

馬鹿馬鹿しい…。

復讐なんてしても、誰が喜ぶんだろう。

自分が自己満足したいだけじゃないか。

…でも、これからやる作戦も自分にとっては復讐に近いだろう。

 

そう考えていく内に、卯月との距離は縮まっていく。

ミファルは、歩く人を避けて路地裏へ足を運んだ。

無論、卯月もその後を追った。

 

少し進んだところでミファルは止まった。 別に行き止まりではない、ここで開始する。

「 鬼ごっこは、もう終わりか?」

後ろから卯月が言った。 暗い声…。

「 …ええ、流石に疲れた」

言葉を返すミファル。

「 なら…!!」

足を踏み締め、卯月は飛び上がった。 そして、ナイフ型の大きな刃物を持ちミファルを襲おうとした。

ミファルは動じない。それよりも笑顔で振り返りざまに、彼女は出したことのない、明るい声で言った。

「 残念だけど、罠にかかったのは君の方なんだよね!!」

ミファルが指をパチンッと鳴らすと、卯月の四方から水が出てきた。

「 !?」

まさかの出来事に対応出来ない卯月。 武器を振り回すものの、右側から出てきた水を諸(もろ)にくらい壁まで押し付けられた。

「 あんた…白弥じゃねぇな…!」

ミファルがオッドアイなのは知っている。 今更だが、卯月の目の前にいるミファルは、両目透き通った水色だった。

「 そうだよ!君がミファルのことを恨んでいるから、罰をしてやるんだ!」

「 っっ!クソガキがぁぁぁぁ!!」

手に持っていた刃物を振り払った。その刹那が、水に伝わり勢いで斬撃の形で出てきた。

「 危ないっ!!」

突然現れた男子高校生が、偽物ミファルを抱きかかえその斬撃を避けた。

「 ジル!!」

「 神海、無茶するなよ!こっちの方が、ハラハラするじゃないか!!」

雨に打たれながらジルは言った。

「 ご、ごめん…」

神海は謝る。

「 あんた…白弥の仲間か?」

卯月の問いに、無言で彼を見つめ返すジル。

「 応答なし…か。構わねぇがな…!」

卯月はジルに向けてナイフを振りかざした。

「 神海、ちょっと下がってて…!」

「 うん…!」

神海はジルに言われた通りに、路地裏の奥に下がった。 ジルは避け、壁をつたって空へ舞い上がる。

「 下、がら空きなんだよっ!!」

彼を追うように、卯月も飛んだ。

「 知ってる…」

その声は先ほどの神海に対した言葉より、あまりにも小さく暗い声だった。

「 あまり、戦いたくないんだ……」

ジルは両手を前につきだした。 その両手から、光輝く十本の槍が放たれる。

「 …なっ!?」

合間なく放たれた槍は、空中にいる卯月には避けられない。 ナイフで守ろうとしたものの耐えきれず、地面に叩きつけられた。

「 いっつぅ……」

呻きながら立ち上がると、路地裏の奥に隠れた偽者のミファル──神海の前には、前髪で右目を隠している黒髪の長身の男子高校生が立っていた。

「 あんたは……!?」

見覚えのあるその姿に、卯月は問いかけようとする。 が、既に黒髪の男子高校生は卯月の目の前に来ており、

「 すまないな……」

卯月の鳩尾に一発殴る。 そのまま卯月は、気を失った。

 

「 別にここまでしなくてもいいと思うよ」

誰かの話し声が聞こえる…

「 いや、これぐらいやらないと何するかわからんからな」

…誰の話だ?

「 それはそうだけど…」

てかこの声、さっき聞いた声に…

 

「 うっ…」

卯月は呻きながら、目を覚ました。

そこは、何処かの店のようで卯月はその店の端っこで眠っていたらしい。 目の前には、今さっきいた偽者ミファルとその仲間が3人、さらに長髪の白髪を持ったオッドアイの見たことのあるやつもいた。

「 あ、起きた?」

偽物のミファルだった神海が言った。

その言葉に他の4人も卯月のほうを向いた。ただ、その中にいる彼女だけはすぐに目を逸らした。

「 ここ、喫茶店だよ。多分君も一度は来たことあるよね…?」

神海は現在地を教えた。 いつもの場所、喫茶 空中庭園だ。 今の時間は店の人に許可を得て営業を止めさせてもらっている。

「 全く…世話の焼ける奴だな」

蒼髪の青年、ザクスが腕を組み、睨みながら呟いた。

卯月は身構えようとしたが、さっきの戦いでこの場にもいるジルの能力により、体を動かすのが精一杯だ。

「 だ、大丈夫だから。僕達、そんな君を殺そうとしたりとかそんな事しないから」

ジルはそう言った。 それでも卯月は身構えるのをやめようとしなかった。

「 俺ら、なんか悪人みたいになっている気がするが…」

ザクスが右目を隠している黒髪の青年、セナに耳打ちした。

「 気のせいだ。あんただけだよ、目つき悪いから」

ボソッとザクスに言った。

「 お前…人のことが言えないと思うが…」

「 自覚しての発言、そうじゃなきゃあんたに向かって言わねぇ」

「 な、つくづくムカつく奴…」

「 そのムカつく奴は、貴方も変わらないと思うのですが?」

二人の近くに、セナとは顔立ちも良く似た黒髪の青年が立っていた。 頬には血が乾ききっているガーゼを張っている。

「 な、ティーア…お前も人のこと言えねぇけどよ…」

セナの双子の弟ティーアは、学園の制服でいるジルやセナとは違い卯月と戦った時の服装とよく似た黒い服装でいる。

「 はいはい、褒め言葉として受け取らせてもらいますね」

ザクスが言った言葉を簡単にまとめさせられてしまった。 ティーアは卯月の前に出る。

「 あんた…あの時の…」

卯月はあの暗闇の中でもティーアの顔を見ていたらしい。 自分の顔を隠すため帽子を顔の半分まで深く被り、さらに目の部分は帽子は開いていたが付属していたゴーグルでさらに隠すというハンデがありながらも、殺し屋のような質があるんだとジルは改めて思った。 まあ、自分の知り合いには本物の殺し屋がいるけど… そんな卯月にティーアは金色の瞳で見つめる。

「 ええ、久し振りですね。あの時はどうも」

「 …………」

卯月は黙り込み、少し俯く。

ティーアは見つめていた瞳を閉じ、その場から少し下がる。 その瞬間から部屋の空気が静かになる。

「 んん、えーとなんだ。久し振りの再会が終わったことだし本題に入ろう」

セナがこの空気を打開した。

「 んまあ、お前の目的は…ミファルを堕落させることか?」

セナの言葉に無言のままの卯月。 ため息をし、続きに入る。

「 その為にはミファルの周囲の関わった人物を傷つけることに入った。最初はなぜ大学生を襲ったか知らんが、それでも辿ってついにミファルの関わる人物を見つけた。それが多分、イリスとテイスじゃねえか?」

「 …………」

「 そして二人と戦い、イリスに痛手を負わした。だが、そこまでミファルの心には傷を負う事は出来なかった。そして次に目星を向けたのが、ロフドと神海だ。何らかの事情で二人をミファルの知り合いだと見て、襲った。お前はそれでも物足りないと感じたんだな。だから次はティーアに標的を。確かジルの家に行く前ミファルはここに寄っていた。それを偶然見たお前はミファルが出たとこを確認、さらに店主がいない時の時間にティーアを襲う」

「 ……………」

「 しかし相手が相手だったな。あいつは能力者、もちろんここにいる俺らも一人除いて能力者だ。そんなやつには少ししか痛手を負わせなかった。しかも自分の正体まで知られてしまった。もう、襲うことは出来ないと思ったな。だが、一つだけあるじゃないか。ミファル自信を傷つけることを。しかしそれも失敗し今現在だ」

一喋りしたセナは壁にもたれた。

「 …でどうだ?正解のほうは?」

卯月は顔を上げ、黙っていた口を開けた。

「 9割、まあほぼ正解」

「 9割…」

ジルが小声で言った。

「 大学生はただ苛められていたからその仕返し。あの姉弟の殺し屋がそこにいる会長さんの知り合いだと前から知っていた。ただ白髪の眼帯やろうと水使いは勘だ、弟の殺し屋のほうが眼帯やろうといたのを見たからな。後は副会長さんが言った通り。最も、あんたらが能力者ってのも覚悟していた」

「 …ん、知っていたのか?俺達が能力者だって」

ザクスは疑問を持つ。

「 だって、あんたらフィアナ団だろ?なら無理っこだね」

「 はは…そういうことね」

ジルは把握した。

フィアナ団――それは生徒会長であるミファル本人が創り出した学園内の能力者が集う集団。 過去に何らかの事情により得た能力で、何か活躍できないかという本人からの要望だ。 そしてこの場にいる全員はそのフィアナ団の一員。 ぶっちゃけた話、そんな活躍する場は少なく基本お気楽なヒーローごっこのようなものになりうつっている。 それでも、関係ない。 過去の忌み嫌われた存在を隠すことが出来るなら…

「 なら、いますぐそこにいる創作者に謝ることだな」

ザクスが言った。

「 お前のやった事は悪いことだ。それをすぐに謝れば少しは気が重くなるだろ?それに…」

「 それに…?」

「 今なら、なんとここの店のタダ券が貰え…!」

「 そんなのありませんよ」

どこからか効果音が出そうな発言。ティーアが間に入るも、そのまま続けるザクス。

「 さらにミファルから会長の座を譲る権利が出来る…!!」

「 ザクス、さっきから何口走っているのよ!!座なんて譲る気ないから!!!」

ザクスのキャラ崩壊に、ついに今まで一言も喋らなかったミファルが怒鳴った。 まるで吹っ切れたかのように…

「 無理か…。なら、ジルのメイド服を着た写真を…」

「 ああ!!それ去年の学園祭の!!!なんで持っているんだよ!!!」

ザクスが取り出した写真は、確かにジルがメイド服を着て赤面しながら接客している写真だった。 その時のクラスメイトに無理やり着させられたのを今でもジルは覚えている。 それを、ジルは写真のように顔を真っ赤にしながらザクスから取り上げた。

「 あぁ、折角撮ってくれたんだけどな…」

「何名残しそうな声で言っているんだよ!よく持っていたね!!」

「 セナが撮ったのくれたんだぜ」

「 セナっ!!」

ジルがセナの方に怒りが向くと、セナは無表情で両手でピースサインした。

「 流石ですね、兄さん。まだそのデータは残っている?」

少し興味を持ったのか話に乗っかるティーアが言う。

「 もちろん…!」

今度は親指を立て、なぜか少し目を輝かせながら前に突き出すセナ。

「 じゃあ今度その写真、印刷してください」

「 おう…!!」

「 ティーアまで……はぁ…」

呆れてものも言えないジル。 この時にティーアが「 まあ、冗談ですけど…」と小さく呟いたのを、ジルが知ったのは少し先の話。

「 で、どうするのですか?謝るのですか、土下座するのですか?」

「 結局、謝るという選択肢しかないのか」

「 あれ?そうですか?」と首を傾げるティーアに、セナは溜息をつきながら彼の肩に手を置く。

「 お前まで、キャラ壊さなくてもいい」というように…

「 それをするかしないか君次第だよ?」

ジルの言葉に今までフィアナ団の空気だった流れが変わる。 最初にあった沈黙の空気とは違う、選択の時。

「 だよな……。よいしょっと…」

卯月はよろめきながら立ち上がり、ミファルの元へ歩み寄った。

「 …ごめん、俺が馬鹿な事をした。腹いせに人を傷つけるなんてへんな方向に言った事を謝る。本当にごめん」

卯月は謝った。 その姿にミファルはただ見つめて、その後に深くため息をついた。

「 そうね、あなたがやってきたことは確かに悪い事。学園の上からの処分は多分、少年院入りになるかもね…」

「 うっ……」

ミファルの言葉に罪の重さを感じる卯月。

「 …と言いたい所だけど、最近生徒会内で荒れちゃって、今、人手不足なんだよね。ねえ、セナ?」

さっきとは少し違う、明るい声でセナに言った。

「 お…おう。そうだが…不足といっても、書記と会計が一人ずついないだけだ」

「 だからさ、頼んでいいか?」

「 …え、何を?」

卯月はその状況が把握できなかった。

「 あなたに書記か会計、頼んでいいかって事。上には私からもお願いするし…」

それはミファルから卯月に対する、心遣いだった。

あれだけ嫌がらせをしても、許すミファルの姿に不意にジルの脳裏を横切るあいつの姿。 それだけ、あいつとミファルが似ていることに…

「 もちろん、喜んでやる!汚名返上な!!」

卯月は言う。

「 まぁ、なんだ。とりあえず一件落着だな」

ザクスが言った。

「 そうだね…」

ジルが呟く。 まだ脳裏にあいつの姿が思い浮かんでいる。

「 それよりさ、話変わるけど…刹那さん?だっけ、兄のほう」

「 そうだが?」

「 さっきの写真の話、俺にもくれないか!」

「 はあぁぁ!??」

卯月の発言に驚くジル。

「 いや、さっきからずっとほしくて…ジル君可愛いじゃないか~」

そう言い、ジルの腕にしがみつく卯月。

「 ち、近づくな!!」

その腕を払ったが、またしがみつく。

「 いいじゃないか~!これでも一応仲良くしている身じゃないか!!」

「 あれから5分もかかってないのに、よく言える口になっていますね…」

その光景をジト目で見るティーアが小声で言う。

「 お、おい!卯月、ジルから離れろ!!」

ザクスが間に入り、二人を離す。

しかし、卯月はまたジルに引っ付こうとする。 ジルは、そのザクスの後ろに隠れた。

「 ミファル、セナ…これは一体…別に惚れ薬なんて飲ませてねえのに」

「 んーと、何ていえばいいのかな…?」

「 ま、一言で言うとこいつはホモな」

セナが構わず言う。

「 んー、蒼髪のあんたもいい体しているんじゃないの…?」

「 !?」

卯月の言葉に寒気が通り、青ざめるザクス。

「 刹那さんも体つきいいし、弟の紅耶君も細めで軽そうで可愛いけど…やっぱジル君かなぁ!!」

夜風兄弟も凍りつくほどの勢いだった。 セナは無表情の中にさらに冷めた顔、ティーアなんかすでに彼を眼中から外している。

「 なあ、いいよね?俺、ジル君の為ならなんでもするぐふぅ…!?」

「「 お前、ミファル( さん)の身にもなれよ。誰のために罪が軽くなったのか、わかっているのか?」」

流石に耐え切れなくなったのか、卯月の腹部に膝蹴りを入れたセナとティーア。

さすが、双子。名称以外、一言一句同じだ。

「 はい、すみません…でも諦めないっ!!」

「 諦めろ!そこは!!」

「 いやっすね!!諦めない心が勝つんっすよ!!」

「 …逃げるが勝ちって言葉もあるけど」

「 あれ?お前の口調、そんなんだっけ??」

「 細かいことはいいんだよ!!」

「 そろそろ、騒ぐのをやめてください。煩くて耳が痛い」

「 あ、ティーアがお怒りだ」

「 無理も無い、卯月の性格はあいつが絶対苦手なタイプだと思う」

「 はは……」

ジルは卯月を含める4人の会話にただ単に笑うしかなかった。

こんな生活が戻ってこれたことに対して。 今でも忘れなくてはいけない、あいつの存在も。 今は、今いるフィアナの皆と仲良く平和に過ごせばいい。 それがずっと続ければ尚更嬉しいものだ。 だから、今を歩き続けよう。今の道が続く限り……。

 

「 あ、そういえば神海は?」

「 さっきからずっとそこで寝てますよ」

「 よくこんなに騒いでいるのに起きないね…」                                                                                            学生事件簿 の先へ  続く