ありきたりな始まり
春が終わり初夏が訪れる夕暮れ時。
赤く染まる空を、僕は学校の校舎の屋上から見ていた。
あれから君に何をしたのだろう、僕はいつも通り君と接したはずだ。
それなのに素直になれなかった。
僕の身勝手についてほしくなかった、構わないでほしかった。
それなのに君は笑顔で僕を誘う。
やめてほしい――無理はしないで、私がいる。
僕の価値は?――君の価値はあるよ、それくらい君の価値が欲しい。
君は、何がしたい?――私の身を滅ぼしたい、君にね。
その時の僕にはまだわからなかった、いや知る意味もなかったのかもしれない。
自分の自分でも嫌いなこの力に君は何に魅力に感じたの?
黄昏時が消えていく…。
日が落ちる前に僕は学校の中庭を歩いていた。
もう、これ以上、ここにはいられない――いることが嫌になってきた。
君とはもう会いたくない。
…いや、会いに行けない。
不安がさす僕の身体は、いつしか錘が乗っかっているように足が重くなった。
重くなった足を引きずるように歩いていく。
不意に校舎の方を向いた。
そこに見えたのは――屋上に人影が見えた。
普段、鉄作が立っているはずなのに、それでも遠くからでもその人影が鉄作の前にいることを…。
でもわかる。
その人影が、君であることを…。
僕は踵を返し、走った。
重くなっていた足はいつしか消えて、君の元へと走る。
「 ――!!」
君の名も呼んでいた。今まで呼ぶことが無かった君の名を…
しかしそれは無駄だった。
君は足を踏み出し、そのまま――落ちていった。
届かない。
落ちて、落ちて――君が宙にいるのが見えなくなったときのこの残酷感。
君が落ちたところには、無様にも………。
僕はそれを見て…。
「 !!」
目を覚ました。
時刻はまだ真夜中の2時を指している。月がまだ空を照らしている。
月光を浴びる街は、それはそれで変わったものだろう。
「 ………まただ」
体を起こす。
自分の目からは確かに一筋の涙が零れた跡があった。
「 また、思い出しちゃった…な」
今もまた零れる涙を拭い、それでもまた溢れ出す涙。
洗面所に行き、水で顔を洗い、濡れた顔をそのまま目の前にある鏡を見た。
さっぱりした感じは自分の中にはある。
それでも、何処かやつれている感じのある自分の顔。
未だに過去を引きずる自分。
今は、もう会えない。
それはもう、わかりきっているんだ。
願っても会えないことも。
もう、他の皆を死なせたりはしない。
君のような道にはさせない。最初からそうすれば良かったのかもしれないけど。
自分の右袖を捲り上げる。
そこには自分が犯した罪とも言える傷が今でも深く残っている。
これが与えられたチャンスなのだ、もう逃しはしない。
逃がしたら次は…。
光希耶 時流は、間違えないように失敗を繰り返さない――。