転成 円卓のフィアナ

【ありがちな世界だけど、僕達は繰り返していく――】 自作の小説を記載、更新は不定期

学生事件簿-3-

ロフドが、何者かにやられたその夜。

ザクスとジル、そして生徒会の会長と副会長がジルの家にいる。

ゲーティスはロフドの付き添い、ティーアはテイスと神海を店で寝かしているため、今日は二人に付き添うらしい。

「 全く、ようやく生徒会のお出ましか……」

壁際に寄りかかっているザクスは小声で言ったものの、会長のミファルには聞こえた。

「 うるさいわね、これでも早い方だ」

「 ……………」 二人の会話に無言で聞いている副会長のセナ。

「 それに、警察も動き出した。俺らのこともバレたら……」

「 まぁまぁ、二人とも。それより今回のことについて……」

ジルは話を戻そうと必死に言った。 ミファルはソファーに深く座り直した。

「 …まずは、敵の正体。なんか証拠でもある?」

ミファルが話を進める。

「 イリスの時は、姿が見えなかったらしい…しかしロフドの時は、何か被り物をしているのが見えたみたいだ」

ザクスはこれまでの事を改め、事前に二人には簡単な解釈を言っておいた。

「 あ、あと…これ……」

ジルは思い出したかのように携帯を取りだし、ある写真を三人に見せた。

「 何が書いてある……?」

「 漢字で"卯"って書いてあったのを、写真でおさめたんだ」

多分ロフドが書いたんだと思う、と付け加えていった。

「 うさぎ、か。何かの特徴か、はたまた……」

「 そういえば、神海から色々聞いておいた」

ミファルの言葉を遮り、セナは続けた。

「 なんでも、敵の被り物がどうやらウサギの被り物みたいだったらしい……」

「 そっか、だから"卯"って書いたのか」

ジルは納得する。

「 それと敵の武器は、ナイフ型の刃物みたいだ」

「 ナイフ?」

「 ああ、料理でよくフォークとナイフがあるだろ?あれだよ」

そう言うとセナは、手を前に出した。

すると、空気の塊が現れたちまちさっき言っていたナイフ型の刃物が出来た。

「 こんな感じの物みたいだ」

「 はぁー…便利ね、その能力」

ミファルはセナの能力に改めて感心する。

「 こんなの、まだ序の口だ…」

そう言い、セナは持っていたナイフ型の刃物を放した。 刃物は形が無くなっていき、最終的にはもう見えなくなった。

「 …これで、敵の正体は大体つかめたね」

ジルはニヤッと笑った。

「 そうだな。だが問題は敵の目的だ」

ザクスはさらに深刻な顔をした。

「 奴の目的がわからない以上、俺らは手も足も出ない…」

「 だな。誰がやられるか、見当がつかない」

セナの言葉を最後に会話が終わった。

皆、次に狙われるのが自分かと不安になっている。 ミファルもセナもザクスも、もちろんジルも、皆暗い顔をしている。

ほかの5人も同じ気持ちなのだろう。

テイスは、自分のせいで姉を殺しかけたと責任を持ってしまった。 そのせいで、自分を守ってくれた姉の看病を寝ないでやっていった挙句、精神的にも身体的にも限界を達していた。

神海も明るいが、心底自分を恨んでるはずだ。 あの時、ジルは神海を安全な場所へ移すとき神海は泣いていた。 ロフドを守れなかった…。 守れなかった自分が悔しいと…。

たとえ、ほかの誰もが持っていない能力を持っていたとしても、人間なのは変わりない。 怖いのは怖い。 憎いのは憎い。 そんな風に、心が回っている。 だから、なにか打開策を打ち出さなくてはいけない。

「 …やっぱり、全員いないと案が出ない」

ミファルが、重い空気を振り払い言った。

ゲーティスとティーアを呼ぶか?あいつらなら……」

ゲーティスはいいと思うけど、問題はティーアの方だよ。あっちには、神海とテイスがいる。無理に出ない方がいいと思うよ」

ジルが言った。

それはそうだ。 二人は敵の正体を知っている。 なら、敵はまず二人を殺しに来るだろう。 一人でも、それを見張る人が欲しい。 だからティーアは、それを覚悟し見張りを受けてくれた。

「 寝れない二人だ。徹夜を過ごすなら、話していた方がいい。ティーアは、携帯で電話すればいい。もうテイス達は寝ているはずたからな」

ようやく重い口を開けセナが話した。

「 ……俺、ゲーティスに電話するから、セナはティーアに」

「 わかった」

そう言い二人は席を外し、ザクスはゲーティス、セナはティーアに電話をかけた。 その間、ジルとミファルはただ待つしかなかった。

数分後……。 ザクスが戻ってきた。

「 どうやら、来るみたいだ。あと15分ぐらいにつくだろうな」

そう言い、ジルの隣に座った。

少し経ってセナが戻ってきたが、浮かない顔をしていた。

「 どうしたの?」

「 ティーアと繋がらない。何度もかけているけど…」

「 えっ…!?」

緊張が走る。 もしや、既にやられているとか……。 その時、着信音が聞こえた。

「 …ティーアだ」

そうセナはいい、皆に聞こえるようにスピーカーにし、電話に出た。

「 もしもし」

『 もしもし、兄さん?』

その声は確かにティーアだ。

『 すみません、電話がきているのを気付けれなくて…』

「 それよりティーア、大丈夫か?」

ザクスは言った。

『 大丈夫……とは言えませんね。わかりますよ』

ティーアの言葉は予想外だった。

「 どうゆうことだ!?」

『 …近くにいるんです。とてつもない殺気を放ちながら、こっちを見ていますよ。少し覚悟しないと…』

「 な、どうするつもり!?」

ジルが荒い声で言った。

誰もがわかる。 いや、わからないはずがない。 ティーアの声が変わったことが。 その声はまるで…。

『 僕だって、腹が立ちますよ。皆さんの大切な仲間が傷ついてることが…。みすみすと、やられるわけにはいかない』

覚悟を決めた強くて、悲しい声だったことを…。

『 僕は僕なりの考えがあります。それが出来れば、少しは皆さんの役にはたつかもしれません』

ティーアの考え…。

まだ誰もがわからない状態だが、確実に、死に対面することはわかった。

ミファルは止めようとしたが、セナは止めてスピーカー越しの携帯に言った。

「 …相変わらずだな、お前って奴は…死んだら、俺が絶対恨んでやるからな……!」

それは、セナなりの弟に対する優しさだった。 少し間が空いて、返ってきた言葉。

『 全く…兄さんったら…でも、無茶はするつもりですけどね』

「 ふん、お前も言うようになったじゃねぇか」

セナは鼻で笑いながら言った。

『 じゃあ、また後で……』

その言葉を最後に通話が切れた。    

 

 ◇   ◆   ◇

 

「 ……………」

通話が終わり、また静かになった店の路地裏。

ティーアは、1つため息をついた。

いつものバイト姿ではなく、黒い私服を着ていた。

「 …出てきてもかまいませんよ?既にこちらは知っています……」

その瞬間、今まで以上に殺気が放ってきた。 圧倒的な殺気に、驚くティーア。

「 …これは、無茶しすぎたかな…?」

小声でボソッと呟いた。    

 

 ◇   ◆   ◇

 

「 なにしてるのよ!?早く助けにいくよ!!」

「 待って!ミファル!!」

ミファルを止めるジル。

「 今行ったら、ただ犠牲者が増えるだけだよ!」

「 ジルの言う通りだ。今は、ティーアが懸命に守ってくれることを祈るしかない…」

セナは言った。

「 で、でも…!仲間がいなくなるのは…」

「 いい加減にしろ!!」

ザクスは、今まで皆には出したことがない声で叫んだ。

「 お前が行っても、結局は状況は変わんないんだ!本末転倒なだけだ!!わかるか!!」

ザクスの声は、部屋中に響き渡った。

それに…とザクスは続けた。

「 お前の気持ちはよくわかった…だが、時にはそれを我慢しなくてはいけない……お前が一番わかるはずだ」

さっきとは正反対のいつもの声で言った。 部屋が静かになった。

「 …ごめん。私が悪かった……」

ミファルは、申し訳なさそうに頭を下げた。

「 いいよ。ミファルの気持ち、わかるもん。僕も同じ気持ち」

ジルは謝っているミファルに言った。

「 今は、待とう……ね?」

ジルはそう皆に言った。 皆同じ気持ちだ。

( なにも出来ない自分が悔しい………)  

 

   ◇   ◆   ◇

 

暗闇で金属音が鳴り響く。 狭い路地裏で、戦っているティーア。

「 つぅ…………!」

狭い上に、回りが暗くてなにも見えない状態で戦うのは無理だ。 避けても、少しの傷は負う。 敵は、突如姿を現し攻撃、そしてまた暗闇に戻る。 単純な行動で、ティーアの方も攻撃をしているが、一向に攻撃が弱くならない。

「 …どこだ……!怖がっているのですか!!」

ティーアは挑発させた。 さっきから、敵の行動がおかしい。 自分が能力を使ってくることに怯えているのではないか、とティーアは思った。

なら、手段は選ばない。 敵の正体をあかすだけだ。 思った通り、敵はまんまと挑発に乗った。 ティーアは、携帯を取りだし左手で操作した。

敵はすぐ近くまで来ていて、ナイフ型の刃物を降り下ろすが、 ティーアはそれを避け右手を敵の頭に伸ばした。 なにか、被り物を被っていた。 それを勢いよく脱がした。

「 見つけましたよ……!」

左手で持っていた携帯を、脱がした敵の顔に向けて一枚の写真を撮った。  

 

   ◇   ◆   ◇

 

「 ……遅い……」

ザクスはボソッと呟いた。

ティーアに電話をかけて、15分経った。 待っているのはティーアの方ではなく、ゲーティスの方だ。 15分で着くと言っておいたものの、くる気配はない。

「 もう…!こっちは必死に考えたいるのに、あいつは馬鹿なのか!?」

ついにミファルが、怒りの言葉を放った。 苛立ってくるのも無理も無い。こちらは既に策が尽きているからだ。

「 大丈夫だ、あいつは馬鹿だから」

ザクスは言った。

「 ったく、もう家に戻ってるんじゃないか?俺らから、挨拶しに行こうぜ」

「 そうだねー……」

そう言い、ジルは立ち上がった。

すると、玄関の扉が開いた。 最初は敵かと思われたが、すぐにそれが違うと分かった。そこには、傷だらけのティーアと彼を腕で抱えているゲーティスがいたからだ。

「 ティーア、ゲーティス!」

ジルは、二人の傍に駆け寄った。

「 ビックリしたぜ。お前んちに行っている途中に、誰かいるなと思ったらティーアだったんだ」

ゲーティスは、遅れた理由を言った。 歩けるかー?と言うと、ティーアはこくと頷いた。

「 全く、今回は役にたったんじゃないか?」

ザクスは言った。

「 どういうことだ?」

ゲーティスは、ティーアをソファに座らせて言った。

「 実はな、さっきミファルがお前のことをば……」

「 にゃあぁぁぁ!!なんでもない!!なんでもないからー!!!」

ミファルは必死にザクスの言葉を遮った。

「 と、とにかく……まずは応急措置をしないと」

「 もうしてるぞー」

そう言ったのはセナだった。 振り向くと、ジルとセナはティーアの傷を手当てしていた。

「 はやっ!!」

「 いや、そっちで話しているうちにもうやっていたよ」

ティーアの傷はそんなに深くなかった。 既に応急措置は終わった。

「 ジル、兄さん。ありがとう……」

ティーアはここに来てようやく口を開いた。 そんなに傷はなかったが、疲れている。能力の使いすぎだろうか。

「 それより、なんとか敵の正体がつかめたと思います…!」

「 本当!?」

ミファルが叫んだ。

「 まずは、これ……」

そう言うと、ティーアはずっと右手で持っていた被り物をジルに渡した。 それは、予想していた通りうさぎの被り物だった。

「 すごいじゃん!」

ジルが喜びの言葉を言うと、ティーアはニコッと笑った。

「 それと、敵の正体は……」

ティーアは携帯を取りだし、中に入っているSDカードを出した。

「 写真を撮ったのです。こちらにくる前に確認したのですが、どうやらぶれていて顔は写っていなかったので……」

「 メカニックのあいつに渡せばいいんだな?」

ザクスはティーアが言う前に言った。 もちろん、同じことを言うつもりだったらしい。

「 よし、これからの作戦は決まった!」

ザクスは皆に向かっていった。

「 まず、俺とジルはあいつの家に行く。いいか、ジル?」

そう言うと、ジルは頷いた。

「 ミファルとセナは、多分警察も情報が欲しいだろうが、これは俺達でかたを終えたい。嘘の事を言い続けてくれ」

「 わかったわ」

ゲーティスは逆に情報を集めてきて欲しい。些細なことでも構わない。出来るだけ多くの人に話してくれ」

「 了解だぜ」

役割が決まったときには、既に時間は日付が変わった。

それは、作戦の始まりでもある。 学生生活最初の事件簿のそれぞれの作戦の、始まりだ……!

                     学生事件簿-4- へ続く……