学生事件簿-2-
昼時の今。
この時間帯は色々な店が、稼ぎ時でもある。 社会人等が店の中に入っていく。
そんな中、彼もまた昼飯を食う時間になったのでどこか良いとこがないかと、ほつき歩いている。 ここでは珍しい蒼髪、碧眼。凛とした顔つき。長身で、どことなく女性にモテる雰囲気がある。
「 さてと…どこで食べるか…」
そう言って歩き続けるが、どこもかしこも満員状態。店から人が溢れている。
「 しまったな、学食でも良かった…」
彼は大学生だ。 学食があるのだが、ほぼ毎日学食だったのでたまにはと思ったのが失態だった。 そうなると、今大学に戻っても結局は同じ結末が待っている。 どうするか…と悩んでいる時に、ふと思い付いた。
「 そうだ、あの店があるな…」
それは、彼が高校生の時に暇な時によく訪れる場所。 友達と仲良く、そして彼と同じ理由の人達が集ったあの店。
「 久々に、行ってみるか」
踵を返し、彼はあの店の方向へ歩き出した。
「 ……あれ?」
彼はとある店の前にいた。
"喫茶 空中庭園"
ここら辺はあまり人通りが少ないが、前まではこの時間だと沢山の人の行き来があり、この喫茶店でも人は入る。 しかし、店の扉には"close"と札が掛かってある。
「 今日は休みだったか…?」
しかし、ほとんど営業中の店が閉店とは珍しいことだ。 何かあったのか…。 そう思い、扉を開けた。 鍵はかかっておらず、そのまま店に入れた。
チリーン…と、店じゅうに響きわたった。
中は誰もいなかったが、厨房からぱたぱたと足音が聞こえ、そこから姿を表した。 整った黒髪で、簡単にエプロン姿でおさめた青年が出てきた。
「 すみません、今日の営業は……って、ザクスさん…?」
青年にそう呼ばれたザクスは、軽く頭を下げた。
「 なんだティーア、いたのか」
ティーアと呼ばれた黒髪の青年は、手に水が入ったコップを持っていた。
「 ちょうど良かった。今、貴方に連絡をしようかと思ったところです」
「 …?何かあったのか?」
「 まずは二階に…皆さんが待ってます」
そう言うと、ティーアは二階に続く階段の方を指した。
二階への階段の近くにある一室。 重々しい空気が漂っている。 誰も言葉を言おうとしない。
そんな中、ガチャ…と扉が開く。 扉の前には、ティーアと今さっき来たばかりのザクスがいた。
「 ザクス……」
先に口が開いたのはジルだった。
その他に、ジルの隣にテイスが座っており、壁際にゲーティスがいた。 テイスはやつれた顔をしており、目の下にくまが出来ている。 ザクスはジルとテイスの反対側のソファーに座った。
「 テイスさん…これ飲んでくださいね」
そうティーアが言い、手に持っていたコップを渡した。
テイスは、渡されたコップを手にし少しずつだが口に入れた。
「 …一体、何があった?」
ザクスの疑問に、口を開いたのはゲーティスだった。
「 イリスが何者かにやられたんだ…」
昨夜の事は、ゲーティスには既に伝わっていたらしい。
「 今、ヨモさんの知り合いの医師の病院で入院中。傷は深いけど、命には別状はないみたい…今、ヨモさんが付き添っているんだ…」 ジルの言葉にホッと一安心するザクス。
「 …俺のせいなんだ…俺が守ってやれなくて……」
テイスは、今回の事は自分の犯した罰だと責めていた。
「 テイス…何があって敵に手を出した?」
ザクスの言葉に顔を上げたテイス。
「 …ここ最近……」
飲み干したコップを机に置き、重く閉じてた口が開いた。
「 ここ最近、姉貴の通っている大学の生徒が何者かにやられ怪我しているんだ……だから、その正体を暴こうとして目を見張っていたけど……」
「 見つけた…が、強かった…」
ゲーティスの言葉に頷いた。
「 敵は何の為に、やっているんだろう…」
「 わからない…でも、怪我した生徒は誰も共通点がないんだ……」
ザクスはジルの顔を見たが、どうやら彼もお手上げのようだ。
「 敵の目的は何か、そもそも何者かも突き止めないと、話が進まないね…」
「 だから…俺が……なんと…か……しない……と…」
最後の言葉が小さくなっていき、テイスはジルの肩に頭を乗せた。
「 テイス……!?」
ジルが心配すると、一置き溜め息をついた人がいた。
「 …ようやく寝てくれた」
したのは、今まで口を開かずただ単に四人の会話を聞いていたティーアだった。
「 お前、何か混ぜたのか…?」
ゲーティスの言葉に、ティーアは愛想笑いした。
「 ヨモさんに少し無理言って、知り合いの医師さんから睡眠薬をもらったんです」
そう言うとティーアは壁に寄りかかり、ズボンのポケットから粉状の白い薬が入った袋を出した。
「 このままだと、彼の命も危ないかと思って……」
「 相変わらず、荒いんだから…」
ジルは、肩に乗せていたテイスの頭をひざの上に乗せた。
「 まあ、ずっと付き添っていたから休ませないとね…」
「 …しかし、このままだと犠牲者が増えるばかりじゃないか。どうするんだ…?」
ザクスの言葉に、部屋の空気がまた重くなる。
「 そういえば…」
ゲーティスがその空気を打開した。
「 ロフドはどうした?さっき連絡したから、もう来てもおかしくないか?」
「 うん、実は神海が遊びに来ているらしくそっちで忙しくなっちゃったみたいで…」
「 まったく…年下にはモテるのかよ、うらやましいぜ…」
ゲーティスがうらやましく言う。
「 いやいや、別に恋人って意味じゃないよ?」
「 なんだよ、ジル。嫉妬か?」
「 し、嫉妬じゃなよ!」
「 まあ、そう言うな。俺だっておもう…」
「 二人とも、そろそろ本題に戻りませんか?結構な脱線をしているので…」
ティーアが二人の会話を遮った。
「 ティーア、お前もか?最近、落ち込んでいるみたいだが…」
ゲーティスの言葉に鋭く睨むティーア。
「 別に…?そういうのには興味ありませんので…」
「 またまた~そんな事言って~」
ゲーティスはティーアの肩を掴もうとしたが、
「 ……そろそろ、いいか?」
一つ咳払いをし、そうザクスは言った。
「「 あ、うん。いいよ」」
ジルとゲーティスは口を揃えながら言い、ティーアは鼻で笑った。
「 まあ、今は誰が狙われているかがわからない。俺も手を貸すが、現状は変わらん」
ザクスは協力はするが、現状はそう発展はしないと言った。
それは、そうだ。
敵の姿はテイス達での戦いではわからず、ほぼ透明人間を相手にしていただけだ。 ましてや、相手の目的は何かもわからない今どうやっても、手をつけられない状態。 迂闊(うかつ)に行動しない方が身のためだが……。
すると、携帯の着信音が鳴った。
「 あ、ごめん…」
ジルの携帯からだ。
ジルは胸ポケットから携帯を出し、相手先を見た。
「 神海から…?なんだろう…」
通話ボタンを押し、電話に出た。
「 もしもし、神海?」
『 ジル!?た、大変だよ!!』
電話に出たのは確かに神海だが、焦りは尋常ないほどだった。
『 ロフドが…ロフドがあたしの身代わりに……!!』
「 神海、落ち着いて!何があったの!?」
今にも泣きそうな声をしている神海。
『 突然…変な帽子を被った奴が来て…いきなり持ってた刃物で……ロフドが…』
そこまで聞いて、ジルは立ち上がった。
テイスはソファーから落ちるも、下に何故かクッションが置いてあり、なんとか起こさずにすることが出来た。
「 おい、ジル!!」
ゲーティスの言葉を無視し、ジルは部屋を出ていった。
「 ゲーティス、ジルを追うぞ…!」
「 わかった。ティーアはテイスを…」
「 言われなくても、見てますよ!早く追ってください!」
ザクスとゲーティスはジルのあとを追うため、部屋から出ていった。 ロフドは、一人で古いアパートを借りている。
そのアパートに着いたジルは急いで、 ロフドの部屋に入った。
「 ロフド!神海!!」
部屋は荒らされており、部屋の奥には倒れたロフドと一生懸命に治療をしている神海がいた。
「 ジル…!ロフドが……」
「 わかっている…!」
ジルは携帯を取りだし、すぐに救急車を呼んだ。
「 ジル!大丈夫か!?」
遅れてジルを追っていたザクスとゲーティスがたどり着いた。
「 参ったな…ザクス、治りそうか?」
ロフドの怪我を見て、ザクスは少し首を傾げたがすぐに
「 息があるなら、まだ大丈夫だ。神海、ここにある、ありったけの治療用品を持ってこい」
「 わかった!」
神海は部屋中から治療用品を探し出した。
「 今、救急車を呼んだ!もうすぐ来るって!」
「 よし、わかった。ゲーティス、腕の止血してくれ」
ザクスはゲーティスと共に止血をし始めた。 ジルは、ロフドの頭の床を不意に見た。
「 ん?なにこれ…?」
その床には、ロフドが書いたであろう"卯"という漢字が血で書いてあった。
「 卯……?」
それが敵の正体だった。
学生事件簿-3- へ続く……