転成 円卓のフィアナ

【ありがちな世界だけど、僕達は繰り返していく――】 自作の小説を記載、更新は不定期

学生事件簿-1-

ある春の黄昏時。

入学式、始業式と学校の大きな行事が終わり、一段落していった。

近くの丘で見れる黄昏時は、カップルのデートスポットでもある。

そんな中、一人の男子高校生が、鞄を肩に掛けて走っていく。

黒い前髪と対称に、後ろ髪は白いというなんとも変わった髪型。炎のような紅く輝く瞳。 光希耶 時流(みきや じる)。皆からは、ジルと呼ばれている。

彼が通っている道は、この時間になると人通りが少なくなり、障害物がなくスムーズに通れる。

そんな彼は、ある店で立ち止まった。

 

"喫茶 空中庭園"

 

建物の近くにある看板にそうかいてある。店からはコーヒーのいい匂いが漂ってくる。 ジルは店の扉を開けて中に入った。

チリーン…と扉に付いていた鈴が店じゅうに響く。

店はそれなりに広く、しかし客は少ない。店にいた人は、ジルに視線を向けるが誰かとわかってすぐに逸らす。

ジルは、自分の特等席でもある窓側の奥の席に座った。

席に着き、ふぅと一息ついたとき、

「 やぁ、ジル君。いらっしゃい」

柔らかい優しい声が聞こえ、机に珈琲を置かれた。

シワがある、常に微笑んでいるかのような顔つき。少し小柄なバーテンダーのような服装をしたおじいさんに話しかけられジルは、

「 ヨモさん、お久し振りです」

ヨモと呼ばれた老人は口元を上げ、久し振りと言わんばかりに笑顔を作った。

「 最近来ないから、少し心配したけど元気そうだね」

「 色々行事があって、中々行けなかっただけですよ」

ジルもつられて笑った。

「 そういえば、ロフド君とは一緒じゃないのかね?」

ヨモの問いにジルは少し困った顔をした。

「 うん、今日は一緒じゃないんです…」

ロフド…本名愎戯 蕗真(ふくぎ ろま)は、ジルと同級生で親友でもある。いつも一緒に帰るのが当たり前のような感じで、ここによるのもいつもの事だった。

そんな彼がいないことにヨモは問わずにはいられなかった。

「 実は、先輩とちょっとのことでケンカになって、先生に怒られているんですよ」

ジルの言葉にヨモは、なるほどと頷いた。

「 ロフド君はケンカッ早いからね…まぁ、次からは気を付けてと言ってたと伝えてくるかな?」

そう伝えます、とジルは苦笑した。

ジルにとって、ヨモは相談所みたいにのってくれる。勿論、それが本職ではない。だがヨモ自身も、彼らに興味を持っているらしい。それは人間性としての興味か、はたまた彼やその仲間達が個々に持っている力にか……。 別にそんなことは、聞いても仕方がない。いや、聞いても仕方がないことだと思う。 なら、他の誰かに相談しようと思う。だから今日は久々にここを訪れたが……

「 今日は、ティーアはいないんですか?来るんじゃ……」

ここを訪れた理由でもある、彼がいないことに今更だが気付いた。 最後まで言う前に、ヨモが話した。

「 ティーア君は、今日は来れないと電話が来てね…用事かな?」

と言い残して、店に新たな客が来たのでそちらの対応しに行く。

ジルはため息をつきながら、椅子を深く座り直した。そして、少し冷めきった珈琲を口にいれた。 珈琲の苦味が、口の中に広がる。といってもそれほど苦くなく、ヨモがジルにあわせた味にしてくれている。

( ……まぁ、そんな焦ることじゃないし)

そう心の中で呟いた。   

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

人通りがない、暗闇の路地裏。

「 はぁ……はぁ…」

暗闇に隠れるような服装をした、二人はどこかに隠れる敵と戦っている。

「 どこだ!?」

一人が誰もいない闇に問いかける。無論、答えは返ってこない。静かな静寂が続く。

「 …姉貴、ここは引こう。俺達じゃ無理だ」

もう一人が、小声で言った。

少し間が空いて、わかったと言い振り返った。

その瞬間、さっきまで無かった殺気が近くまで、強く伝わってくる。

「 気を付けて…!敵が近くに……」

しかし時すでに遅し。 見えない敵が、姿を表したと思いきや既に目の前までいた。

「 かぁっ……!」

敵が放った刹那に、体が切りつかれた。その瞬間、切り傷から血が吹き出る。

「 姉貴……!!」

そう叫んだ時には、倒れていた。 敵の姿は消え、殺気も無くなった。

「 姉貴!」

駆け寄り生きていることを確認した。

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

時刻は十時前を指していた。営業時間が終わりに近づく。

ヨモは、最後の客を帰らせて、後片付けをしているところに……

「 ………んぅ……」

ジルは目を覚ました。どうやら寝てしまったらしく、肩まで毛布が掛かってあった。

「 お目覚めかな?」

起きたのに気付いたヨモは、ジルのいる席に来た。

ジルは、少し寝ぼけていたが……

「 …あぁ!ごめんなさい!!寝ちゃったみたいで…」

今の状況を把握したみたいで、謝った。

「 いや、大丈夫だよ」

ヨモは笑いながら言った。

「 速く帰してやるんだけとね。君達に興味があるだけ。君が迷惑だと思っていても、私はそうとは思わない、むしろ大歓迎だ」

ヨモが言っている事は、寝起きのジルには意味がわからなかった。ただ、彼なりの心の温かさはいつもと変わらない。

だから、信頼できる。

「 それに、ジル君の寝顔が可愛くてね。写真を撮ってしまったよ」

「 えええっ!?ちょっ、ヨモさん!!?」

前言撤回、この人ある意味怖い。そう思ってしまったジル。

「 いやいや……あまりにもね。撮っている時にティーア君が来たから焦ったよ」

「 えっ?ティーア、来たんですか?」

「 そう、隠したつもりなんだけど…彼、鋭くてね。バレてしまったよ」

ヨモの答えに、ジルはため息しかつけなかった。

「 そうそう、ジル君の寝顔の写真、あれティーア君に送っといたよ」

「 はあぁぁぁ!?」

ジル自信も出すほども無かった驚くほどに大声を上げたのにも関わらず、ヨモは続けた。

「 今頃、彼は驚いていることだろうねー。いや、面白がっていることだろうね。ふふ…」

「 ヨモさん……はぁ」

ヨモの行動に、ため息しかつけなかった。 そして、ジルが最も感じたこと。 それは…

「 ティーア、なんで来たんだろう…」

 「 さぁ、私もわからんがこう言っていたよ」

 

『 いえ、ちょっと嫌な予感がしたので来たのですが…。何ともないですね。…ただの勘違いだったのかも知れません』

 

その時のティーアの言葉を一語一句、そう言ったかのように間違えずにヨモは言った。

「 …嫌な予感」

「 彼の勘は、時々当たるからね…もし本当だったら……」

その時だった。 ヨモの言葉を遮り、店の扉をドンドンと叩く音がした。

 「 …僕が出ます」

ジルはそう言い、椅子から立ち上がりゆっくりと扉を開けた。

そこには…

「 テイス、イリス!?」

扉の前には、血だらけになったイリスと、彼女を抱えている弟のテイスがいた。 彼は、姉の血で血だらけになっていた。

「 !!ジル!姉貴が…姉貴が…!」

「 ヨモさん!!イリスが…!」

ジルの言葉に駆け寄ってきたヨモは、深刻そうな顔をした。

 「 これは、病院に連れていった方がいい…。私の友達に、医者がいる。そいつに見てもらおう…」

「 分かりました…!テイス、止血をして少しでも状態を維持させよう」

「 …治るか、この傷…」

テイスの弱音にジルは叫んだ。

「 テイス!治るかじゃない、治させるんだ!僕達が出来ることをしろ!!」

それが最善の方法。 ――そして、これを境に次々に事件が起こるとはまだこの時、誰もわかっていなかった……      

                        学生事件簿-2-へ続く