ありきたりな始まり
春が終わり初夏が訪れる夕暮れ時。
赤く染まる空を、僕は学校の校舎の屋上から見ていた。
あれから君に何をしたのだろう、僕はいつも通り君と接したはずだ。
それなのに素直になれなかった。
僕の身勝手についてほしくなかった、構わないでほしかった。
それなのに君は笑顔で僕を誘う。
やめてほしい――無理はしないで、私がいる。
僕の価値は?――君の価値はあるよ、それくらい君の価値が欲しい。
君は、何がしたい?――私の身を滅ぼしたい、君にね。
その時の僕にはまだわからなかった、いや知る意味もなかったのかもしれない。
自分の自分でも嫌いなこの力に君は何に魅力に感じたの?
黄昏時が消えていく…。
日が落ちる前に僕は学校の中庭を歩いていた。
もう、これ以上、ここにはいられない――いることが嫌になってきた。
君とはもう会いたくない。
…いや、会いに行けない。
不安がさす僕の身体は、いつしか錘が乗っかっているように足が重くなった。
重くなった足を引きずるように歩いていく。
不意に校舎の方を向いた。
そこに見えたのは――屋上に人影が見えた。
普段、鉄作が立っているはずなのに、それでも遠くからでもその人影が鉄作の前にいることを…。
でもわかる。
その人影が、君であることを…。
僕は踵を返し、走った。
重くなっていた足はいつしか消えて、君の元へと走る。
「 ――!!」
君の名も呼んでいた。今まで呼ぶことが無かった君の名を…
しかしそれは無駄だった。
君は足を踏み出し、そのまま――落ちていった。
届かない。
落ちて、落ちて――君が宙にいるのが見えなくなったときのこの残酷感。
君が落ちたところには、無様にも………。
僕はそれを見て…。
「 !!」
目を覚ました。
時刻はまだ真夜中の2時を指している。月がまだ空を照らしている。
月光を浴びる街は、それはそれで変わったものだろう。
「 ………まただ」
体を起こす。
自分の目からは確かに一筋の涙が零れた跡があった。
「 また、思い出しちゃった…な」
今もまた零れる涙を拭い、それでもまた溢れ出す涙。
洗面所に行き、水で顔を洗い、濡れた顔をそのまま目の前にある鏡を見た。
さっぱりした感じは自分の中にはある。
それでも、何処かやつれている感じのある自分の顔。
未だに過去を引きずる自分。
今は、もう会えない。
それはもう、わかりきっているんだ。
願っても会えないことも。
もう、他の皆を死なせたりはしない。
君のような道にはさせない。最初からそうすれば良かったのかもしれないけど。
自分の右袖を捲り上げる。
そこには自分が犯した罪とも言える傷が今でも深く残っている。
これが与えられたチャンスなのだ、もう逃しはしない。
逃がしたら次は…。
光希耶 時流は、間違えないように失敗を繰り返さない――。
事件後の日常…?
あの事件が終止符を打った2日後。
学園はいつものように平和に過ぎている。
そう、そのはずだったのだ。
ジル、ロフド、テイスの3人は中庭の芝生で昼食中。
「 ロフド、もう傷のほうは大丈夫なの?」
ジルは言った。
ロフドはあの事件の被害者になった。 自分の家に犯人に突如襲われ、ロフドだけ襲いそのまま逃げていった。 幸い、後から駆けつけたジルとザクスの応急措置でなんとか一命を取り留めた。
「 ああ、ほとんど無いぐらいだ。心配かけて悪かったな」
「 それなら良かった」
ちなみに、イリスのほうも驚異的な回復力で予定よりも3日ほど早く退院できた。
そんな姉を持つ弟のテイスは、口に購買で買ってきた焼きそばパンを頬張った。
「 ふぉぐ、ふぉあうふぁふごふぃふふぁ?」
「 テイス…せめて食べてから言えよな」
ロフドが言う。 テイスは焼きそばパンを食べ、さっき言ったのと同じ事を言った。
「 でも、あいつはここにいるんだろ?」
「 う…まあそうだけど…」
テイスの言葉に、危うく飲もうとしていた飲み物をこぼしそうになるジル。
「 別に悪さとかしないから大丈夫だろ?」
「 だろうな、あれだけ痛めつければな」
「 ……だといいけどね」
ジルがそう呟き、飲み物を置いた瞬間。
「 ジルくーん!!」
その声に、とっさにジルは悪寒を感じた。
「 お、噂をすればなんとやら…」
「 だな」
ロフドとテイスはそう言った。
向こう側から、兎型の帽子を被った男子高校生がこちらに向かって走ってくる。
「 ちょ、ごめん…席外す!」
ジルがそう言って立ち上がろうとしたら、その男子に飛び込まれ そのまま倒れこまれてしまう。
「 全くー、ジル君ったらー!探したんだぞ?」
彼はジルを起こし、ジルの腕にしがみついてきた。
「 う、卯月…暇してたんじゃないの…」
「 まさかー!ずっと探してたんだぜ?感謝してくれよなー」
二人の異様なやり取りにロフドは顔を隠し俯く。
「 あれ、ロフド。どうした?」
「 いや、なんであんな奴にやられたかわけがわからねえ…」
そんなロフドを置いて、話が進む。
「 え、い、いや感謝じゃなくて…ちょっとは本性を隠したほうが…ね?」
「 何言ってるんのさ!君みたいな子とかはおいしいのだぞ?」
「 な、何がおいしいの?」
「 描写的に」
「 い、いやぁ!ロフド、テイス!!こいつ!!こいつを止めてよ!!!」
半泣き状態のジルは助けを求める。
しかし、卯月の額の前には黒く光る拳銃があった。
その持ち主でもあるテイスは、黒い笑顔でいた。
「 あのな卯月、限度っていうもんがあるんだぞ?ジルは嫌がっているのだ。さっさと離れて地獄にでも落ちんか、この腐れ野郎ぉぉぉ!!」
トリガーを引き、発射するテイス。 幸い、卯月は間一髪のところを避けている。
「 あ、危ないじゃんか!てか、ここ学校!!そんな危ないもん持っちゃ駄目だって!!!」
そういいジルから離れ、その場から走り去る卯月。しかしテイスはその後をなぜか追いかける。
「 うるせぇ!!お前がさっさと死んでしまえ!!!」
「 死にたくねぇぇぇぇ!!その前にそれをしまってくれ!!!!」
その後ろを見る助かったジル。
「 テイス、やり過ぎだって…ねぇ、ロフド…って大丈夫?」
振り返るとロフドはまだ膝を折りたたみ腕で固定し、まるで落ちこぼれのような状態で座っている。
「なんであいつなんかに…俺、弱者じゃねぇか…」
「 …相当ショックだったんだね」
昼食後、高校側の校舎3階。 皆、昼食を食べ終わったのか廊下で駄弁ったりと自由にしている。
「 えっと…これは、これでいいのかな?」
そんな中を、白く長い髪を揺らしながらミファルはいくつものファイルや書類を抱えながら歩く。
「はぁ…全く、先生もこんな事しなくても良かったのにな…」
ミファルがブツブツと愚痴を吐いていると、不意に横から手が出てきて持っていたファイルや書類を取っていった。 横を見ると、無表情に持っていったセナがいた。
「 びっくりした、いきなり持っていかれるから誰だろって思った…」
「 それは悪かった。丁度、暇で通りかかったところを見たから手伝おうと思った」
相変わらず冷たい声。 それでも彼なりの心の温かさが感じる。
「 これ持っていく。どうせ生徒会室にいくんだろ」
「 うん、ありがと」
ミファルは礼言い、そのまま彼と一緒に歩き始めた。
しかし…
「 刹那さーん!」
何処かで聞いた事のある、いやな声が聞こえた。 それはこの廊下にいる誰もが聞こえるほど大きな声だった。 その声に二人はいやな顔を見合わした。
「 ……セナ?」
「 ……あいつか」
ミファルが後ろを振り向くと、生徒をも圧倒する、ものすごい勢いでこちらに走ってくる卯月の姿があった。
「 あの馬鹿っ!また性懲りも無く!!」
「 …………」
「 さっきはちょっと失敗したが…刹那さんっ!君に俺の愛を!!」
卯月は先ほどジルに飛びついたように飛び込んだ。 しかし相手が相手だった。 セナはそれを避け、卯月は廊下に叩きつけられた。
「 ん、ミファル。さっさと行くぞ」
「 え…う、うん」
卯月を見なかったのかのように、二人はそのままスタスタと歩いた。
「 ちょっと待ったああぁぁ!」
しかし卯月は諦めなかった。
「 なっ!?そこは諦めなよ…」
ミファルがまた振り向き呆れた声で言った。
「 ふっ…俺が諦めると思ったかあぁぁ!!」
「 ただのうぜぇ奴だなっ…!」
セナまでもが呆れる。
「 俺にとっちゃ、最高の褒め言葉だぜ!」
卯月は先ほどのようにまた飛び込んだ。 すると、横の教室から何か分厚いものを投げ込まれ卯月の頭に直撃、卯月はそのまま倒れた。
「 もう誰だよ…こんな分厚い本を投げたの…」
「 あ、すみません」
投げ込んできた教室から出てきたのは、セナの双子の弟であるティーアだった。 数日前にあった頬の傷はすっかりと消えている。
「 ティーア…お前…」
「 ふふっ、ちょっと手が滑っちゃいました」
ティーアの笑顔が、あからさまに怖い。本気で投げたのだろう。
「 いや、なんか逆に助かった。ありがとよ」
「 いえいえ、礼には及びません。後の処理は僕がやっておきますので」
そう言い、ティーアは投げ込んだ本を取り卯月を抱えた。
「 では、また後ほどで。早くしないと、休憩、終わっちゃいますよ?」
「 あ、そうだった。行こうか、セナ」
「 おう」
ミファルとセナは生徒会室へ足を運んだ。
二人を見届けたティーアは卯月を再度抱え込み、踵を返す。
「 ……はっ、ここは!てか、双子の紅耶君じゃないか!君に会えた事にはやはり運命をかんじぐふっ…!」
騒ぐ卯月に鳩尾をうつティーア。
「 少しは黙らないか、このお調子者め…」
ぐたっと倒れきった卯月に吐き捨てる言葉。
「 全く…本当なら少年院でも行っているはずなのですよ…?」
大きなため息をつくティーアをよそおい卯月は顔を上げる。
「 まぁ、いいじゃないか。これで俺らの愛が育まれるならな」
「 喋れるなら立てよ、というかお前とは愛を育む気なんてさらさら無い」
「 嫌だ、立たな…ごめんなさい、立ちます、歩きますって…だからそんな拳あげないでさ、な?分 かってくれよ?な、な?」
このあとティーアが、卯月を自分の能力をまで使って再度懲らしめたのは言うまでもない。
「 学園のほうが多分、大変だと思うのは気のせいか」
「 せやな、あいつを怒る奴なんて相当いねぇから」
「 …誰の事?」
「 「 なんか接してはいけない奴の事( だぜ)」」
今日も学園は平和です!
序章編 終
―後書きという能力―
おはこんにちばんわ!タラニスっす!!
いやはや、ようやく序章でもある『学生事件簿』が幕を閉じる事が出来て嬉しいかぎりです! 本音、ここまで続けるなんて考えてないのですよw
この『 学生事件簿』を読み返すと、つくづく変な構造だったり誤字があったりと後悔ばっかりですなww これからは気をつけたいと思います…
さて、話は本題に入りまして。 序章編が終わり、話は終わるはずだった!…のですが。 どう言う訳か、既に話の続きを作っている途中で、さらにこの後に出てくるジル達の過去編も既に考えていたりと…
「 私、終わる気すらねええぇぇ!!」
と自分でも叫んでしまうほどですね( もちろん、心の中でですよw)
という訳で暇さえあればこの後の続きも書いていきますよ。
ということで次回は現代編。
多分物語の始まりがこれから始まります。卯月なんてまだまだ序の口。
本当の物語の始まりは終わってからやってくるんですよw
てか、本当に卯月はホモで良かったわ。終わりがしっくりくるw
この現代編で新たなるキャラが出てくると、もうそろそろ把握しきれなくなってしまいますが! それでも暇つぶし程度で見てくれると嬉しいです!!
では、また今度の話で会いましょう!
卯月「 やっぱり俺っていじられキャラじゃね?」
タラニス「 うん、まあ頑張れ☆ww」
学生事件簿-5-
作戦実行の夕方。
今の時間は、黒い雲があり既に雨は降っていた。 みな傘を差し、街を行き来している光景。天気予報では夕方から雨が降ると言っていたが、そんなことも知らずに走っていく人もいた。
そんな中、ミファルは傘を差し淡々と家路を歩いていた。
だが、気が付いた。 後ろから少しだが、殺気を放っていることを…。
『 …来た』
昨日通り、奴、卯月が人と人を陰にし歩いている。
銀色の髪、緑色の目が此方を見てる。 彼は傘を差さずに冷たい目で、こちらに近づいてくる。 その姿を横目で見たミファル。
馬鹿馬鹿しい…。
復讐なんてしても、誰が喜ぶんだろう。
自分が自己満足したいだけじゃないか。
…でも、これからやる作戦も自分にとっては復讐に近いだろう。
そう考えていく内に、卯月との距離は縮まっていく。
ミファルは、歩く人を避けて路地裏へ足を運んだ。
無論、卯月もその後を追った。
少し進んだところでミファルは止まった。 別に行き止まりではない、ここで開始する。
「 鬼ごっこは、もう終わりか?」
後ろから卯月が言った。 暗い声…。
「 …ええ、流石に疲れた」
言葉を返すミファル。
「 なら…!!」
足を踏み締め、卯月は飛び上がった。 そして、ナイフ型の大きな刃物を持ちミファルを襲おうとした。
ミファルは動じない。それよりも笑顔で振り返りざまに、彼女は出したことのない、明るい声で言った。
「 残念だけど、罠にかかったのは君の方なんだよね!!」
ミファルが指をパチンッと鳴らすと、卯月の四方から水が出てきた。
「 !?」
まさかの出来事に対応出来ない卯月。 武器を振り回すものの、右側から出てきた水を諸(もろ)にくらい壁まで押し付けられた。
「 あんた…白弥じゃねぇな…!」
ミファルがオッドアイなのは知っている。 今更だが、卯月の目の前にいるミファルは、両目透き通った水色だった。
「 そうだよ!君がミファルのことを恨んでいるから、罰をしてやるんだ!」
「 っっ!クソガキがぁぁぁぁ!!」
手に持っていた刃物を振り払った。その刹那が、水に伝わり勢いで斬撃の形で出てきた。
「 危ないっ!!」
突然現れた男子高校生が、偽物ミファルを抱きかかえその斬撃を避けた。
「 ジル!!」
「 神海、無茶するなよ!こっちの方が、ハラハラするじゃないか!!」
雨に打たれながらジルは言った。
「 ご、ごめん…」
神海は謝る。
「 あんた…白弥の仲間か?」
卯月の問いに、無言で彼を見つめ返すジル。
「 応答なし…か。構わねぇがな…!」
卯月はジルに向けてナイフを振りかざした。
「 神海、ちょっと下がってて…!」
「 うん…!」
神海はジルに言われた通りに、路地裏の奥に下がった。 ジルは避け、壁をつたって空へ舞い上がる。
「 下、がら空きなんだよっ!!」
彼を追うように、卯月も飛んだ。
「 知ってる…」
その声は先ほどの神海に対した言葉より、あまりにも小さく暗い声だった。
「 あまり、戦いたくないんだ……」
ジルは両手を前につきだした。 その両手から、光輝く十本の槍が放たれる。
「 …なっ!?」
合間なく放たれた槍は、空中にいる卯月には避けられない。 ナイフで守ろうとしたものの耐えきれず、地面に叩きつけられた。
「 いっつぅ……」
呻きながら立ち上がると、路地裏の奥に隠れた偽者のミファル──神海の前には、前髪で右目を隠している黒髪の長身の男子高校生が立っていた。
「 あんたは……!?」
見覚えのあるその姿に、卯月は問いかけようとする。 が、既に黒髪の男子高校生は卯月の目の前に来ており、
「 すまないな……」
卯月の鳩尾に一発殴る。 そのまま卯月は、気を失った。
「 別にここまでしなくてもいいと思うよ」
誰かの話し声が聞こえる…
「 いや、これぐらいやらないと何するかわからんからな」
…誰の話だ?
「 それはそうだけど…」
てかこの声、さっき聞いた声に…
「 うっ…」
卯月は呻きながら、目を覚ました。
そこは、何処かの店のようで卯月はその店の端っこで眠っていたらしい。 目の前には、今さっきいた偽者ミファルとその仲間が3人、さらに長髪の白髪を持ったオッドアイの見たことのあるやつもいた。
「 あ、起きた?」
偽物のミファルだった神海が言った。
その言葉に他の4人も卯月のほうを向いた。ただ、その中にいる彼女だけはすぐに目を逸らした。
「 ここ、喫茶店だよ。多分君も一度は来たことあるよね…?」
神海は現在地を教えた。 いつもの場所、喫茶 空中庭園だ。 今の時間は店の人に許可を得て営業を止めさせてもらっている。
「 全く…世話の焼ける奴だな」
蒼髪の青年、ザクスが腕を組み、睨みながら呟いた。
卯月は身構えようとしたが、さっきの戦いでこの場にもいるジルの能力により、体を動かすのが精一杯だ。
「 だ、大丈夫だから。僕達、そんな君を殺そうとしたりとかそんな事しないから」
ジルはそう言った。 それでも卯月は身構えるのをやめようとしなかった。
「 俺ら、なんか悪人みたいになっている気がするが…」
ザクスが右目を隠している黒髪の青年、セナに耳打ちした。
「 気のせいだ。あんただけだよ、目つき悪いから」
ボソッとザクスに言った。
「 お前…人のことが言えないと思うが…」
「 自覚しての発言、そうじゃなきゃあんたに向かって言わねぇ」
「 な、つくづくムカつく奴…」
「 そのムカつく奴は、貴方も変わらないと思うのですが?」
二人の近くに、セナとは顔立ちも良く似た黒髪の青年が立っていた。 頬には血が乾ききっているガーゼを張っている。
「 な、ティーア…お前も人のこと言えねぇけどよ…」
セナの双子の弟ティーアは、学園の制服でいるジルやセナとは違い卯月と戦った時の服装とよく似た黒い服装でいる。
「 はいはい、褒め言葉として受け取らせてもらいますね」
ザクスが言った言葉を簡単にまとめさせられてしまった。 ティーアは卯月の前に出る。
「 あんた…あの時の…」
卯月はあの暗闇の中でもティーアの顔を見ていたらしい。 自分の顔を隠すため帽子を顔の半分まで深く被り、さらに目の部分は帽子は開いていたが付属していたゴーグルでさらに隠すというハンデがありながらも、殺し屋のような質があるんだとジルは改めて思った。 まあ、自分の知り合いには本物の殺し屋がいるけど… そんな卯月にティーアは金色の瞳で見つめる。
「 ええ、久し振りですね。あの時はどうも」
「 …………」
卯月は黙り込み、少し俯く。
ティーアは見つめていた瞳を閉じ、その場から少し下がる。 その瞬間から部屋の空気が静かになる。
「 んん、えーとなんだ。久し振りの再会が終わったことだし本題に入ろう」
セナがこの空気を打開した。
「 んまあ、お前の目的は…ミファルを堕落させることか?」
セナの言葉に無言のままの卯月。 ため息をし、続きに入る。
「 その為にはミファルの周囲の関わった人物を傷つけることに入った。最初はなぜ大学生を襲ったか知らんが、それでも辿ってついにミファルの関わる人物を見つけた。それが多分、イリスとテイスじゃねえか?」
「 …………」
「 そして二人と戦い、イリスに痛手を負わした。だが、そこまでミファルの心には傷を負う事は出来なかった。そして次に目星を向けたのが、ロフドと神海だ。何らかの事情で二人をミファルの知り合いだと見て、襲った。お前はそれでも物足りないと感じたんだな。だから次はティーアに標的を。確かジルの家に行く前ミファルはここに寄っていた。それを偶然見たお前はミファルが出たとこを確認、さらに店主がいない時の時間にティーアを襲う」
「 ……………」
「 しかし相手が相手だったな。あいつは能力者、もちろんここにいる俺らも一人除いて能力者だ。そんなやつには少ししか痛手を負わせなかった。しかも自分の正体まで知られてしまった。もう、襲うことは出来ないと思ったな。だが、一つだけあるじゃないか。ミファル自信を傷つけることを。しかしそれも失敗し今現在だ」
一喋りしたセナは壁にもたれた。
「 …でどうだ?正解のほうは?」
卯月は顔を上げ、黙っていた口を開けた。
「 9割、まあほぼ正解」
「 9割…」
ジルが小声で言った。
「 大学生はただ苛められていたからその仕返し。あの姉弟の殺し屋がそこにいる会長さんの知り合いだと前から知っていた。ただ白髪の眼帯やろうと水使いは勘だ、弟の殺し屋のほうが眼帯やろうといたのを見たからな。後は副会長さんが言った通り。最も、あんたらが能力者ってのも覚悟していた」
「 …ん、知っていたのか?俺達が能力者だって」
ザクスは疑問を持つ。
「 だって、あんたらフィアナ団だろ?なら無理っこだね」
「 はは…そういうことね」
ジルは把握した。
フィアナ団――それは生徒会長であるミファル本人が創り出した学園内の能力者が集う集団。 過去に何らかの事情により得た能力で、何か活躍できないかという本人からの要望だ。 そしてこの場にいる全員はそのフィアナ団の一員。 ぶっちゃけた話、そんな活躍する場は少なく基本お気楽なヒーローごっこのようなものになりうつっている。 それでも、関係ない。 過去の忌み嫌われた存在を隠すことが出来るなら…
「 なら、いますぐそこにいる創作者に謝ることだな」
ザクスが言った。
「 お前のやった事は悪いことだ。それをすぐに謝れば少しは気が重くなるだろ?それに…」
「 それに…?」
「 今なら、なんとここの店のタダ券が貰え…!」
「 そんなのありませんよ」
どこからか効果音が出そうな発言。ティーアが間に入るも、そのまま続けるザクス。
「 さらにミファルから会長の座を譲る権利が出来る…!!」
「 ザクス、さっきから何口走っているのよ!!座なんて譲る気ないから!!!」
ザクスのキャラ崩壊に、ついに今まで一言も喋らなかったミファルが怒鳴った。 まるで吹っ切れたかのように…
「 無理か…。なら、ジルのメイド服を着た写真を…」
「 ああ!!それ去年の学園祭の!!!なんで持っているんだよ!!!」
ザクスが取り出した写真は、確かにジルがメイド服を着て赤面しながら接客している写真だった。 その時のクラスメイトに無理やり着させられたのを今でもジルは覚えている。 それを、ジルは写真のように顔を真っ赤にしながらザクスから取り上げた。
「 あぁ、折角撮ってくれたんだけどな…」
「何名残しそうな声で言っているんだよ!よく持っていたね!!」
「 セナが撮ったのくれたんだぜ」
「 セナっ!!」
ジルがセナの方に怒りが向くと、セナは無表情で両手でピースサインした。
「 流石ですね、兄さん。まだそのデータは残っている?」
少し興味を持ったのか話に乗っかるティーアが言う。
「 もちろん…!」
今度は親指を立て、なぜか少し目を輝かせながら前に突き出すセナ。
「 じゃあ今度その写真、印刷してください」
「 おう…!!」
「 ティーアまで……はぁ…」
呆れてものも言えないジル。 この時にティーアが「 まあ、冗談ですけど…」と小さく呟いたのを、ジルが知ったのは少し先の話。
「 で、どうするのですか?謝るのですか、土下座するのですか?」
「 結局、謝るという選択肢しかないのか」
「 あれ?そうですか?」と首を傾げるティーアに、セナは溜息をつきながら彼の肩に手を置く。
「 お前まで、キャラ壊さなくてもいい」というように…
「 それをするかしないか君次第だよ?」
ジルの言葉に今までフィアナ団の空気だった流れが変わる。 最初にあった沈黙の空気とは違う、選択の時。
「 だよな……。よいしょっと…」
卯月はよろめきながら立ち上がり、ミファルの元へ歩み寄った。
「 …ごめん、俺が馬鹿な事をした。腹いせに人を傷つけるなんてへんな方向に言った事を謝る。本当にごめん」
卯月は謝った。 その姿にミファルはただ見つめて、その後に深くため息をついた。
「 そうね、あなたがやってきたことは確かに悪い事。学園の上からの処分は多分、少年院入りになるかもね…」
「 うっ……」
ミファルの言葉に罪の重さを感じる卯月。
「 …と言いたい所だけど、最近生徒会内で荒れちゃって、今、人手不足なんだよね。ねえ、セナ?」
さっきとは少し違う、明るい声でセナに言った。
「 お…おう。そうだが…不足といっても、書記と会計が一人ずついないだけだ」
「 だからさ、頼んでいいか?」
「 …え、何を?」
卯月はその状況が把握できなかった。
「 あなたに書記か会計、頼んでいいかって事。上には私からもお願いするし…」
それはミファルから卯月に対する、心遣いだった。
あれだけ嫌がらせをしても、許すミファルの姿に不意にジルの脳裏を横切るあいつの姿。 それだけ、あいつとミファルが似ていることに…
「 もちろん、喜んでやる!汚名返上な!!」
卯月は言う。
「 まぁ、なんだ。とりあえず一件落着だな」
ザクスが言った。
「 そうだね…」
ジルが呟く。 まだ脳裏にあいつの姿が思い浮かんでいる。
「 それよりさ、話変わるけど…刹那さん?だっけ、兄のほう」
「 そうだが?」
「 さっきの写真の話、俺にもくれないか!」
「 はあぁぁ!??」
卯月の発言に驚くジル。
「 いや、さっきからずっとほしくて…ジル君可愛いじゃないか~」
そう言い、ジルの腕にしがみつく卯月。
「 ち、近づくな!!」
その腕を払ったが、またしがみつく。
「 いいじゃないか~!これでも一応仲良くしている身じゃないか!!」
「 あれから5分もかかってないのに、よく言える口になっていますね…」
その光景をジト目で見るティーアが小声で言う。
「 お、おい!卯月、ジルから離れろ!!」
ザクスが間に入り、二人を離す。
しかし、卯月はまたジルに引っ付こうとする。 ジルは、そのザクスの後ろに隠れた。
「 ミファル、セナ…これは一体…別に惚れ薬なんて飲ませてねえのに」
「 んーと、何ていえばいいのかな…?」
「 ま、一言で言うとこいつはホモな」
セナが構わず言う。
「 んー、蒼髪のあんたもいい体しているんじゃないの…?」
「 !?」
卯月の言葉に寒気が通り、青ざめるザクス。
「 刹那さんも体つきいいし、弟の紅耶君も細めで軽そうで可愛いけど…やっぱジル君かなぁ!!」
夜風兄弟も凍りつくほどの勢いだった。 セナは無表情の中にさらに冷めた顔、ティーアなんかすでに彼を眼中から外している。
「 なあ、いいよね?俺、ジル君の為ならなんでもするぐふぅ…!?」
「「 お前、ミファル( さん)の身にもなれよ。誰のために罪が軽くなったのか、わかっているのか?」」
流石に耐え切れなくなったのか、卯月の腹部に膝蹴りを入れたセナとティーア。
さすが、双子。名称以外、一言一句同じだ。
「 はい、すみません…でも諦めないっ!!」
「 諦めろ!そこは!!」
「 いやっすね!!諦めない心が勝つんっすよ!!」
「 …逃げるが勝ちって言葉もあるけど」
「 あれ?お前の口調、そんなんだっけ??」
「 細かいことはいいんだよ!!」
「 そろそろ、騒ぐのをやめてください。煩くて耳が痛い」
「 あ、ティーアがお怒りだ」
「 無理も無い、卯月の性格はあいつが絶対苦手なタイプだと思う」
「 はは……」
ジルは卯月を含める4人の会話にただ単に笑うしかなかった。
こんな生活が戻ってこれたことに対して。 今でも忘れなくてはいけない、あいつの存在も。 今は、今いるフィアナの皆と仲良く平和に過ごせばいい。 それがずっと続ければ尚更嬉しいものだ。 だから、今を歩き続けよう。今の道が続く限り……。
「 あ、そういえば神海は?」
「 さっきからずっとそこで寝てますよ」
「 よくこんなに騒いでいるのに起きないね…」 学生事件簿 の先へ 続く
学生事件簿-4-
翌日。
ジルとザクスは、昨夜、ティーアが撮った敵の正体を知るため、とある街中のマンションに来ていた。
「 ……こんな豪華なとこ住んでるの?」
マンションは18階立てで、外見では凄く綺麗なところだった。そんじょそこらの建物とは、全然違う。ジルが驚くのも、おかしくない。
「 まぁ、あいつの仕事が結構特別だからな…」
ザクスは、スタスタとマンションの中に入っていった。
それをジルは追っていった。
「 何階なの?」
「 最上階、最もあいつが一番暮らしやすい場所だ」
マンションの最上階。
その突き当たりに、メカニックのあいつが住んでる。
ザクスは、インターホンを押した。
しかし中々出てこない。
「 ……留守……かな?」
「 いや、そんなことないだろう。ただでさえ、外に行くのも嫌な奴が……」
そうザクスが言い終わる前に、ドアが開いた。
「 誰……?」
顔を覗かせたのは、ジルと同年齢位の青年だった。
少し警戒をしていたが、ザクスとジルの姿を見ると、
「 あ、ザクス、ジル。久しぶりー」
と、まるでやる気の無さが伝わる口調で言った。
「 レアン、久しぶり。元気だった?」
ジルが言った。
「 うーん、元気とは言えないね」
レアンは髪を掻きながら言った。
レアンの姿は上下ジャージで、染めたわけでもないが留めてある後ろ髪が蒼く染まっている。
肩には、ヘッドフォンが掛かっている。
「 今日は何の用?俺、これから寝ようと思っていたんだけど…」
「 寝るのかい……」
未だに太陽は、真上にある。
「 すぐ終わる…。入るぞー」
そう言い、ザクスはレアンの了解を得ずにそのまま部屋に入った。
ジルも、悪気はあったがそのまま一緒に入った。
中は綺麗で、日光が当たる場所なので明るい。
キッチンやテーブルは、まだ使ってないかのように綺麗だ。
「 あ、もうかよ!?」
レアンは、ザクスを止めようとするがすぐに本題を持ち出された。
「 お前、学生が何者かに殺されかけているのを知っているか?」
「 知ってる。ネットじゃあそれが原因で大騒ぎ。朝もニュースで取り上げられたぐらいだよ」
ため息をつきながら、レアンはまだ新しいソファに座った。
「 そうか……」
ザクスは視線をジルに逸らした。
そして、あの事だとジルは把握した。
「 レアン、実はね……」
そう言いジルは、ポケットからSDカードを出した。
「 この中にある写真に、その犯人の敵の顔が写っているんだ。で、その写真を明らかにして欲しいんだ」
ジルはレアンに、SDカードを渡した。
「 と、言うというのは?」
「 この写真、ティーアが撮ったんだけど、どうやらぶれていて明白に敵の顔が見えないんだよ。だから……」
ジルが言う前に、レアンは止めた。
「 わかった。二人とも、こっちに来て」
レアンは、リビングの奥にある扉を開けた。
ジルとザクスは、その部屋に入った。
リビングとは違い、薄暗い部屋でその回りにはパソコンが数台、その他に機械類が並べられてる。
「 うわぁ……凄いね…」
「 でしょ?ほとんど、街からの頂き物。結構、性能は言い方なんだー」
そう言い、レアンは真ん中にあるパソコンにさっき貰ったSDカードが入ったUSBを挿した。
「 ねぇ、レアンはどうしてここにいるの?」
ジルは言った。
「 んー?ザクス、説明してー。こっちで忙しいから…」
「 わかった…」
ザクスは頷き、扉の近くの壁にもたれた。
「 元々、レアンはハッカーだったんだ。結構裏で働いていたらしい…だが、バレてしまったが、逆に街の上の方がそれをいかしてやれると判断したらしい…」
「 だから、街はこの場所を選び俺に預かっている情報を、管理しているってこと。例え街の情報が盗まれても、あちらはほとんど偽物。全てこっちにあるんだ」
レアンはマウスを動かしながら言った。
「 罪滅ぼし…てこと?」
「 そんなとこ」
ジルは納得した。
「 だから、学校に行けないの?」
「 まぁ、それもあるけど……」
レアンはパソコンを見つめながら言った。
「 他にもあるの?」
「 ……………」
しかし、返事は返ってこなかった。
ジルはそれ以上、問い詰めるつもりはなかった。
「 ……よし、出来たよー」
伸びをしながら、レアンは大きな欠伸をして言った。
二人は、パソコンを覗いた。
そこには、銀髪の青年が写っていた。
「 …!!僕、この顔見たことある!」
ジルが言った。
「 知ってるのか?」
「 多分、ミファルもセナも見たことあるはずだよ…!」
忘れるはずがない。その青年の名を言った。
「 ……卯月 莉來(うづき りく)…!」
◇ ◆ ◇
「 そうか、卯月が犯人だったのね……」
ジルとザクスは、一旦ジルの家に戻りミファルに報告した。
「 知ってるのか?その卯月って奴…」
「 知ってるも何も、私のクラスメイトだわ。それに…」
「 それに…?」
「 ………………」
ミファルは、黙ってしまった。
しかし、それを把握したのはジルだった。
「 もしかして、生徒会の……?」
「 ……もしかしてね」
「 ジルも知ってるのか?」
「 うん…」
「 一週間前なんだけど、学校はその日は生徒会選挙だったんた。元々はもっと早くやるはずだったんだけど…」
「 なるほど、まぁ事情はあったんだな」
ザクスは納得したかのように、頷いた。
「 うん。で、選挙が始まった。書記や会計、副会長はすぐに決まったんだ…」
無論、それが誰になったのかはザクスも知っている。
以前、ミファルが言ってくれた。
それぞれ一人しか立候補はしていなかったからだ。
「 だけど、会長の方はミファルとその卯月と二人立候補がいたんだ」
「 ちょっと待て。オチが段々わかってきたんだが……」
ザクスは蒼い髪を掻きながら言った。
「 その卯月は、会長になれなくてその腹いせに暴力をしているって考えか?」
ジルは頷いた。
「 うん…簡単にするとそうなるね」
「 ……わりぃ、俺そいつ殴ってきていいか?」
「 ちょっと待てぃ!」
言ったのは、扉を強く開け登場してきたゲーティスだった。
「 外から聞いていたけど、お前は何をしでかそうとしてるんだ!?」
「 なっ!お前こそ何盗み聞きしてんだ!?これは、警察を呼ばないと…!」
「 うぜぇぇ!」
ザクスとゲーティスの間で、喧嘩の雰囲気になっていく一方で、ジルとミファルは話を続けた。
「 こうなっていくと、最終的にはミファルが危ないね…」
腕を組むジル。
「 …だな。確実に私達の仲間が傷つけたいった。もう、私が標的になってもおかしくない…」
「 この様子だと、明日になるかもね」
「 ………謝るべきか」
「 いや、それは無理だろうな」
ザクスと喧嘩していたゲーティスが口を挟んできた。
「 相手は既にミファルを落ち込んでいる為にやっているものだ。落ち込んでいる今が、狙っているはずだ」
「 謝りにいったら、確実にやられる…」
ジルの言葉に頷くゲーティス。
「 …逆を考えれば、相手は人気のない場所にいる。俺らだって打つ手はある」
「 考えがあるの…?」
こくっと頷くザクス。
「 俺の予想だが、下校時に狙う可能性がある。なら、呼びき寄せてやればいい。あえて路地裏に行き、そこで捕まえれば良い。まあ、処分の方は生徒会でなんとかしてくれ」
一通り言い終わったところで、ザクスはため息をついた。
「 お前、なんか頭冴えてるなー」
「 もちろん、お前より頭が良いと思っている。いや、確実にな」
「 なっ!?お前っ…!」
「 はい、そこまでだ」
ザクスとゲーティスがまた喧嘩に入ろうとしたのを、いつの間にかいたセナが止めた。
傍には、神海が一緒にいる。
「 大の大人が、子供の前で喧嘩をするなんて馬鹿みたいだぞ?」
「 セナ、神海…いつの間に」
「ゲーティスがここに入ってきた前からいた」
「 なんか、作戦が立てたみたいだね…!!」
相変わらず威勢のいい神海。
そんな神海の頭ににポンッと手を乗せたセナは言った。
「 その作戦、神海が引き受けるみたいだ」
「 そ、それはどうゆうこと?」
ジルは話についていけてない。
焦っているかのような口調で言った。
「 あたしが囮となって、ミファルの格好するんだ…!そうすれば、あたしの能力でなんとかできるから!!」
「 えぇぇ!?危ないよ!」
ジルの反対する言葉に、いつものように明るく言う神海。
「 大丈夫!私だってやる時はやるんだ!それに…!」
「 もう、私は守ってもらうだけじゃダメなんだ。今度は守ってみせる…!!」
学生事件簿-5-に続く
学生事件簿-3-
ロフドが、何者かにやられたその夜。
ザクスとジル、そして生徒会の会長と副会長がジルの家にいる。
ゲーティスはロフドの付き添い、ティーアはテイスと神海を店で寝かしているため、今日は二人に付き添うらしい。
「 全く、ようやく生徒会のお出ましか……」
壁際に寄りかかっているザクスは小声で言ったものの、会長のミファルには聞こえた。
「 うるさいわね、これでも早い方だ」
「 ……………」 二人の会話に無言で聞いている副会長のセナ。
「 それに、警察も動き出した。俺らのこともバレたら……」
「 まぁまぁ、二人とも。それより今回のことについて……」
ジルは話を戻そうと必死に言った。 ミファルはソファーに深く座り直した。
「 …まずは、敵の正体。なんか証拠でもある?」
ミファルが話を進める。
「 イリスの時は、姿が見えなかったらしい…しかしロフドの時は、何か被り物をしているのが見えたみたいだ」
ザクスはこれまでの事を改め、事前に二人には簡単な解釈を言っておいた。
「 あ、あと…これ……」
ジルは思い出したかのように携帯を取りだし、ある写真を三人に見せた。
「 何が書いてある……?」
「 漢字で"卯"って書いてあったのを、写真でおさめたんだ」
多分ロフドが書いたんだと思う、と付け加えていった。
「 うさぎ、か。何かの特徴か、はたまた……」
「 そういえば、神海から色々聞いておいた」
ミファルの言葉を遮り、セナは続けた。
「 なんでも、敵の被り物がどうやらウサギの被り物みたいだったらしい……」
「 そっか、だから"卯"って書いたのか」
ジルは納得する。
「 それと敵の武器は、ナイフ型の刃物みたいだ」
「 ナイフ?」
「 ああ、料理でよくフォークとナイフがあるだろ?あれだよ」
そう言うとセナは、手を前に出した。
すると、空気の塊が現れたちまちさっき言っていたナイフ型の刃物が出来た。
「 こんな感じの物みたいだ」
「 はぁー…便利ね、その能力」
ミファルはセナの能力に改めて感心する。
「 こんなの、まだ序の口だ…」
そう言い、セナは持っていたナイフ型の刃物を放した。 刃物は形が無くなっていき、最終的にはもう見えなくなった。
「 …これで、敵の正体は大体つかめたね」
ジルはニヤッと笑った。
「 そうだな。だが問題は敵の目的だ」
ザクスはさらに深刻な顔をした。
「 奴の目的がわからない以上、俺らは手も足も出ない…」
「 だな。誰がやられるか、見当がつかない」
セナの言葉を最後に会話が終わった。
皆、次に狙われるのが自分かと不安になっている。 ミファルもセナもザクスも、もちろんジルも、皆暗い顔をしている。
ほかの5人も同じ気持ちなのだろう。
テイスは、自分のせいで姉を殺しかけたと責任を持ってしまった。 そのせいで、自分を守ってくれた姉の看病を寝ないでやっていった挙句、精神的にも身体的にも限界を達していた。
神海も明るいが、心底自分を恨んでるはずだ。 あの時、ジルは神海を安全な場所へ移すとき神海は泣いていた。 ロフドを守れなかった…。 守れなかった自分が悔しいと…。
たとえ、ほかの誰もが持っていない能力を持っていたとしても、人間なのは変わりない。 怖いのは怖い。 憎いのは憎い。 そんな風に、心が回っている。 だから、なにか打開策を打ち出さなくてはいけない。
「 …やっぱり、全員いないと案が出ない」
ミファルが、重い空気を振り払い言った。
「 ゲーティスとティーアを呼ぶか?あいつらなら……」
「 ゲーティスはいいと思うけど、問題はティーアの方だよ。あっちには、神海とテイスがいる。無理に出ない方がいいと思うよ」
ジルが言った。
それはそうだ。 二人は敵の正体を知っている。 なら、敵はまず二人を殺しに来るだろう。 一人でも、それを見張る人が欲しい。 だからティーアは、それを覚悟し見張りを受けてくれた。
「 寝れない二人だ。徹夜を過ごすなら、話していた方がいい。ティーアは、携帯で電話すればいい。もうテイス達は寝ているはずたからな」
ようやく重い口を開けセナが話した。
「 ……俺、ゲーティスに電話するから、セナはティーアに」
「 わかった」
そう言い二人は席を外し、ザクスはゲーティス、セナはティーアに電話をかけた。 その間、ジルとミファルはただ待つしかなかった。
数分後……。 ザクスが戻ってきた。
「 どうやら、来るみたいだ。あと15分ぐらいにつくだろうな」
そう言い、ジルの隣に座った。
少し経ってセナが戻ってきたが、浮かない顔をしていた。
「 どうしたの?」
「 ティーアと繋がらない。何度もかけているけど…」
「 えっ…!?」
緊張が走る。 もしや、既にやられているとか……。 その時、着信音が聞こえた。
「 …ティーアだ」
そうセナはいい、皆に聞こえるようにスピーカーにし、電話に出た。
「 もしもし」
『 もしもし、兄さん?』
その声は確かにティーアだ。
『 すみません、電話がきているのを気付けれなくて…』
「 それよりティーア、大丈夫か?」
ザクスは言った。
『 大丈夫……とは言えませんね。わかりますよ』
ティーアの言葉は予想外だった。
「 どうゆうことだ!?」
『 …近くにいるんです。とてつもない殺気を放ちながら、こっちを見ていますよ。少し覚悟しないと…』
「 な、どうするつもり!?」
ジルが荒い声で言った。
誰もがわかる。 いや、わからないはずがない。 ティーアの声が変わったことが。 その声はまるで…。
『 僕だって、腹が立ちますよ。皆さんの大切な仲間が傷ついてることが…。みすみすと、やられるわけにはいかない』
覚悟を決めた強くて、悲しい声だったことを…。
『 僕は僕なりの考えがあります。それが出来れば、少しは皆さんの役にはたつかもしれません』
ティーアの考え…。
まだ誰もがわからない状態だが、確実に、死に対面することはわかった。
ミファルは止めようとしたが、セナは止めてスピーカー越しの携帯に言った。
「 …相変わらずだな、お前って奴は…死んだら、俺が絶対恨んでやるからな……!」
それは、セナなりの弟に対する優しさだった。 少し間が空いて、返ってきた言葉。
『 全く…兄さんったら…でも、無茶はするつもりですけどね』
「 ふん、お前も言うようになったじゃねぇか」
セナは鼻で笑いながら言った。
『 じゃあ、また後で……』
その言葉を最後に通話が切れた。
◇ ◆ ◇
「 ……………」
通話が終わり、また静かになった店の路地裏。
ティーアは、1つため息をついた。
いつものバイト姿ではなく、黒い私服を着ていた。
「 …出てきてもかまいませんよ?既にこちらは知っています……」
その瞬間、今まで以上に殺気が放ってきた。 圧倒的な殺気に、驚くティーア。
「 …これは、無茶しすぎたかな…?」
小声でボソッと呟いた。
◇ ◆ ◇
「 なにしてるのよ!?早く助けにいくよ!!」
「 待って!ミファル!!」
ミファルを止めるジル。
「 今行ったら、ただ犠牲者が増えるだけだよ!」
「 ジルの言う通りだ。今は、ティーアが懸命に守ってくれることを祈るしかない…」
セナは言った。
「 で、でも…!仲間がいなくなるのは…」
「 いい加減にしろ!!」
ザクスは、今まで皆には出したことがない声で叫んだ。
「 お前が行っても、結局は状況は変わんないんだ!本末転倒なだけだ!!わかるか!!」
ザクスの声は、部屋中に響き渡った。
それに…とザクスは続けた。
「 お前の気持ちはよくわかった…だが、時にはそれを我慢しなくてはいけない……お前が一番わかるはずだ」
さっきとは正反対のいつもの声で言った。 部屋が静かになった。
「 …ごめん。私が悪かった……」
ミファルは、申し訳なさそうに頭を下げた。
「 いいよ。ミファルの気持ち、わかるもん。僕も同じ気持ち」
ジルは謝っているミファルに言った。
「 今は、待とう……ね?」
ジルはそう皆に言った。 皆同じ気持ちだ。
( なにも出来ない自分が悔しい………)
◇ ◆ ◇
暗闇で金属音が鳴り響く。 狭い路地裏で、戦っているティーア。
「 つぅ…………!」
狭い上に、回りが暗くてなにも見えない状態で戦うのは無理だ。 避けても、少しの傷は負う。 敵は、突如姿を現し攻撃、そしてまた暗闇に戻る。 単純な行動で、ティーアの方も攻撃をしているが、一向に攻撃が弱くならない。
「 …どこだ……!怖がっているのですか!!」
ティーアは挑発させた。 さっきから、敵の行動がおかしい。 自分が能力を使ってくることに怯えているのではないか、とティーアは思った。
なら、手段は選ばない。 敵の正体をあかすだけだ。 思った通り、敵はまんまと挑発に乗った。 ティーアは、携帯を取りだし左手で操作した。
敵はすぐ近くまで来ていて、ナイフ型の刃物を降り下ろすが、 ティーアはそれを避け右手を敵の頭に伸ばした。 なにか、被り物を被っていた。 それを勢いよく脱がした。
「 見つけましたよ……!」
左手で持っていた携帯を、脱がした敵の顔に向けて一枚の写真を撮った。
◇ ◆ ◇
「 ……遅い……」
ザクスはボソッと呟いた。
ティーアに電話をかけて、15分経った。 待っているのはティーアの方ではなく、ゲーティスの方だ。 15分で着くと言っておいたものの、くる気配はない。
「 もう…!こっちは必死に考えたいるのに、あいつは馬鹿なのか!?」
ついにミファルが、怒りの言葉を放った。 苛立ってくるのも無理も無い。こちらは既に策が尽きているからだ。
「 大丈夫だ、あいつは馬鹿だから」
ザクスは言った。
「 ったく、もう家に戻ってるんじゃないか?俺らから、挨拶しに行こうぜ」
「 そうだねー……」
そう言い、ジルは立ち上がった。
すると、玄関の扉が開いた。 最初は敵かと思われたが、すぐにそれが違うと分かった。そこには、傷だらけのティーアと彼を腕で抱えているゲーティスがいたからだ。
「 ティーア、ゲーティス!」
ジルは、二人の傍に駆け寄った。
「 ビックリしたぜ。お前んちに行っている途中に、誰かいるなと思ったらティーアだったんだ」
ゲーティスは、遅れた理由を言った。 歩けるかー?と言うと、ティーアはこくと頷いた。
「 全く、今回は役にたったんじゃないか?」
ザクスは言った。
「 どういうことだ?」
ゲーティスは、ティーアをソファに座らせて言った。
「 実はな、さっきミファルがお前のことをば……」
「 にゃあぁぁぁ!!なんでもない!!なんでもないからー!!!」
ミファルは必死にザクスの言葉を遮った。
「 と、とにかく……まずは応急措置をしないと」
「 もうしてるぞー」
そう言ったのはセナだった。 振り向くと、ジルとセナはティーアの傷を手当てしていた。
「 はやっ!!」
「 いや、そっちで話しているうちにもうやっていたよ」
ティーアの傷はそんなに深くなかった。 既に応急措置は終わった。
「 ジル、兄さん。ありがとう……」
ティーアはここに来てようやく口を開いた。 そんなに傷はなかったが、疲れている。能力の使いすぎだろうか。
「 それより、なんとか敵の正体がつかめたと思います…!」
「 本当!?」
ミファルが叫んだ。
「 まずは、これ……」
そう言うと、ティーアはずっと右手で持っていた被り物をジルに渡した。 それは、予想していた通りうさぎの被り物だった。
「 すごいじゃん!」
ジルが喜びの言葉を言うと、ティーアはニコッと笑った。
「 それと、敵の正体は……」
ティーアは携帯を取りだし、中に入っているSDカードを出した。
「 写真を撮ったのです。こちらにくる前に確認したのですが、どうやらぶれていて顔は写っていなかったので……」
「 メカニックのあいつに渡せばいいんだな?」
ザクスはティーアが言う前に言った。 もちろん、同じことを言うつもりだったらしい。
「 よし、これからの作戦は決まった!」
ザクスは皆に向かっていった。
「 まず、俺とジルはあいつの家に行く。いいか、ジル?」
そう言うと、ジルは頷いた。
「 ミファルとセナは、多分警察も情報が欲しいだろうが、これは俺達でかたを終えたい。嘘の事を言い続けてくれ」
「 わかったわ」
「 ゲーティスは逆に情報を集めてきて欲しい。些細なことでも構わない。出来るだけ多くの人に話してくれ」
「 了解だぜ」
役割が決まったときには、既に時間は日付が変わった。
それは、作戦の始まりでもある。 学生生活最初の事件簿のそれぞれの作戦の、始まりだ……!
学生事件簿-4- へ続く……
学生事件簿-2-
昼時の今。
この時間帯は色々な店が、稼ぎ時でもある。 社会人等が店の中に入っていく。
そんな中、彼もまた昼飯を食う時間になったのでどこか良いとこがないかと、ほつき歩いている。 ここでは珍しい蒼髪、碧眼。凛とした顔つき。長身で、どことなく女性にモテる雰囲気がある。
「 さてと…どこで食べるか…」
そう言って歩き続けるが、どこもかしこも満員状態。店から人が溢れている。
「 しまったな、学食でも良かった…」
彼は大学生だ。 学食があるのだが、ほぼ毎日学食だったのでたまにはと思ったのが失態だった。 そうなると、今大学に戻っても結局は同じ結末が待っている。 どうするか…と悩んでいる時に、ふと思い付いた。
「 そうだ、あの店があるな…」
それは、彼が高校生の時に暇な時によく訪れる場所。 友達と仲良く、そして彼と同じ理由の人達が集ったあの店。
「 久々に、行ってみるか」
踵を返し、彼はあの店の方向へ歩き出した。
「 ……あれ?」
彼はとある店の前にいた。
"喫茶 空中庭園"
ここら辺はあまり人通りが少ないが、前まではこの時間だと沢山の人の行き来があり、この喫茶店でも人は入る。 しかし、店の扉には"close"と札が掛かってある。
「 今日は休みだったか…?」
しかし、ほとんど営業中の店が閉店とは珍しいことだ。 何かあったのか…。 そう思い、扉を開けた。 鍵はかかっておらず、そのまま店に入れた。
チリーン…と、店じゅうに響きわたった。
中は誰もいなかったが、厨房からぱたぱたと足音が聞こえ、そこから姿を表した。 整った黒髪で、簡単にエプロン姿でおさめた青年が出てきた。
「 すみません、今日の営業は……って、ザクスさん…?」
青年にそう呼ばれたザクスは、軽く頭を下げた。
「 なんだティーア、いたのか」
ティーアと呼ばれた黒髪の青年は、手に水が入ったコップを持っていた。
「 ちょうど良かった。今、貴方に連絡をしようかと思ったところです」
「 …?何かあったのか?」
「 まずは二階に…皆さんが待ってます」
そう言うと、ティーアは二階に続く階段の方を指した。
二階への階段の近くにある一室。 重々しい空気が漂っている。 誰も言葉を言おうとしない。
そんな中、ガチャ…と扉が開く。 扉の前には、ティーアと今さっき来たばかりのザクスがいた。
「 ザクス……」
先に口が開いたのはジルだった。
その他に、ジルの隣にテイスが座っており、壁際にゲーティスがいた。 テイスはやつれた顔をしており、目の下にくまが出来ている。 ザクスはジルとテイスの反対側のソファーに座った。
「 テイスさん…これ飲んでくださいね」
そうティーアが言い、手に持っていたコップを渡した。
テイスは、渡されたコップを手にし少しずつだが口に入れた。
「 …一体、何があった?」
ザクスの疑問に、口を開いたのはゲーティスだった。
「 イリスが何者かにやられたんだ…」
昨夜の事は、ゲーティスには既に伝わっていたらしい。
「 今、ヨモさんの知り合いの医師の病院で入院中。傷は深いけど、命には別状はないみたい…今、ヨモさんが付き添っているんだ…」 ジルの言葉にホッと一安心するザクス。
「 …俺のせいなんだ…俺が守ってやれなくて……」
テイスは、今回の事は自分の犯した罰だと責めていた。
「 テイス…何があって敵に手を出した?」
ザクスの言葉に顔を上げたテイス。
「 …ここ最近……」
飲み干したコップを机に置き、重く閉じてた口が開いた。
「 ここ最近、姉貴の通っている大学の生徒が何者かにやられ怪我しているんだ……だから、その正体を暴こうとして目を見張っていたけど……」
「 見つけた…が、強かった…」
ゲーティスの言葉に頷いた。
「 敵は何の為に、やっているんだろう…」
「 わからない…でも、怪我した生徒は誰も共通点がないんだ……」
ザクスはジルの顔を見たが、どうやら彼もお手上げのようだ。
「 敵の目的は何か、そもそも何者かも突き止めないと、話が進まないね…」
「 だから…俺が……なんと…か……しない……と…」
最後の言葉が小さくなっていき、テイスはジルの肩に頭を乗せた。
「 テイス……!?」
ジルが心配すると、一置き溜め息をついた人がいた。
「 …ようやく寝てくれた」
したのは、今まで口を開かずただ単に四人の会話を聞いていたティーアだった。
「 お前、何か混ぜたのか…?」
ゲーティスの言葉に、ティーアは愛想笑いした。
「 ヨモさんに少し無理言って、知り合いの医師さんから睡眠薬をもらったんです」
そう言うとティーアは壁に寄りかかり、ズボンのポケットから粉状の白い薬が入った袋を出した。
「 このままだと、彼の命も危ないかと思って……」
「 相変わらず、荒いんだから…」
ジルは、肩に乗せていたテイスの頭をひざの上に乗せた。
「 まあ、ずっと付き添っていたから休ませないとね…」
「 …しかし、このままだと犠牲者が増えるばかりじゃないか。どうするんだ…?」
ザクスの言葉に、部屋の空気がまた重くなる。
「 そういえば…」
ゲーティスがその空気を打開した。
「 ロフドはどうした?さっき連絡したから、もう来てもおかしくないか?」
「 うん、実は神海が遊びに来ているらしくそっちで忙しくなっちゃったみたいで…」
「 まったく…年下にはモテるのかよ、うらやましいぜ…」
ゲーティスがうらやましく言う。
「 いやいや、別に恋人って意味じゃないよ?」
「 なんだよ、ジル。嫉妬か?」
「 し、嫉妬じゃなよ!」
「 まあ、そう言うな。俺だっておもう…」
「 二人とも、そろそろ本題に戻りませんか?結構な脱線をしているので…」
ティーアが二人の会話を遮った。
「 ティーア、お前もか?最近、落ち込んでいるみたいだが…」
ゲーティスの言葉に鋭く睨むティーア。
「 別に…?そういうのには興味ありませんので…」
「 またまた~そんな事言って~」
ゲーティスはティーアの肩を掴もうとしたが、
「 ……そろそろ、いいか?」
一つ咳払いをし、そうザクスは言った。
「「 あ、うん。いいよ」」
ジルとゲーティスは口を揃えながら言い、ティーアは鼻で笑った。
「 まあ、今は誰が狙われているかがわからない。俺も手を貸すが、現状は変わらん」
ザクスは協力はするが、現状はそう発展はしないと言った。
それは、そうだ。
敵の姿はテイス達での戦いではわからず、ほぼ透明人間を相手にしていただけだ。 ましてや、相手の目的は何かもわからない今どうやっても、手をつけられない状態。 迂闊(うかつ)に行動しない方が身のためだが……。
すると、携帯の着信音が鳴った。
「 あ、ごめん…」
ジルの携帯からだ。
ジルは胸ポケットから携帯を出し、相手先を見た。
「 神海から…?なんだろう…」
通話ボタンを押し、電話に出た。
「 もしもし、神海?」
『 ジル!?た、大変だよ!!』
電話に出たのは確かに神海だが、焦りは尋常ないほどだった。
『 ロフドが…ロフドがあたしの身代わりに……!!』
「 神海、落ち着いて!何があったの!?」
今にも泣きそうな声をしている神海。
『 突然…変な帽子を被った奴が来て…いきなり持ってた刃物で……ロフドが…』
そこまで聞いて、ジルは立ち上がった。
テイスはソファーから落ちるも、下に何故かクッションが置いてあり、なんとか起こさずにすることが出来た。
「 おい、ジル!!」
ゲーティスの言葉を無視し、ジルは部屋を出ていった。
「 ゲーティス、ジルを追うぞ…!」
「 わかった。ティーアはテイスを…」
「 言われなくても、見てますよ!早く追ってください!」
ザクスとゲーティスはジルのあとを追うため、部屋から出ていった。 ロフドは、一人で古いアパートを借りている。
そのアパートに着いたジルは急いで、 ロフドの部屋に入った。
「 ロフド!神海!!」
部屋は荒らされており、部屋の奥には倒れたロフドと一生懸命に治療をしている神海がいた。
「 ジル…!ロフドが……」
「 わかっている…!」
ジルは携帯を取りだし、すぐに救急車を呼んだ。
「 ジル!大丈夫か!?」
遅れてジルを追っていたザクスとゲーティスがたどり着いた。
「 参ったな…ザクス、治りそうか?」
ロフドの怪我を見て、ザクスは少し首を傾げたがすぐに
「 息があるなら、まだ大丈夫だ。神海、ここにある、ありったけの治療用品を持ってこい」
「 わかった!」
神海は部屋中から治療用品を探し出した。
「 今、救急車を呼んだ!もうすぐ来るって!」
「 よし、わかった。ゲーティス、腕の止血してくれ」
ザクスはゲーティスと共に止血をし始めた。 ジルは、ロフドの頭の床を不意に見た。
「 ん?なにこれ…?」
その床には、ロフドが書いたであろう"卯"という漢字が血で書いてあった。
「 卯……?」
それが敵の正体だった。
学生事件簿-3- へ続く……
学生事件簿-1-
ある春の黄昏時。
入学式、始業式と学校の大きな行事が終わり、一段落していった。
近くの丘で見れる黄昏時は、カップルのデートスポットでもある。
そんな中、一人の男子高校生が、鞄を肩に掛けて走っていく。
黒い前髪と対称に、後ろ髪は白いというなんとも変わった髪型。炎のような紅く輝く瞳。 光希耶 時流(みきや じる)。皆からは、ジルと呼ばれている。
彼が通っている道は、この時間になると人通りが少なくなり、障害物がなくスムーズに通れる。
そんな彼は、ある店で立ち止まった。
"喫茶 空中庭園"
建物の近くにある看板にそうかいてある。店からはコーヒーのいい匂いが漂ってくる。 ジルは店の扉を開けて中に入った。
チリーン…と扉に付いていた鈴が店じゅうに響く。
店はそれなりに広く、しかし客は少ない。店にいた人は、ジルに視線を向けるが誰かとわかってすぐに逸らす。
ジルは、自分の特等席でもある窓側の奥の席に座った。
席に着き、ふぅと一息ついたとき、
「 やぁ、ジル君。いらっしゃい」
柔らかい優しい声が聞こえ、机に珈琲を置かれた。
シワがある、常に微笑んでいるかのような顔つき。少し小柄なバーテンダーのような服装をしたおじいさんに話しかけられジルは、
「 ヨモさん、お久し振りです」
ヨモと呼ばれた老人は口元を上げ、久し振りと言わんばかりに笑顔を作った。
「 最近来ないから、少し心配したけど元気そうだね」
「 色々行事があって、中々行けなかっただけですよ」
ジルもつられて笑った。
「 そういえば、ロフド君とは一緒じゃないのかね?」
ヨモの問いにジルは少し困った顔をした。
「 うん、今日は一緒じゃないんです…」
ロフド…本名愎戯 蕗真(ふくぎ ろま)は、ジルと同級生で親友でもある。いつも一緒に帰るのが当たり前のような感じで、ここによるのもいつもの事だった。
そんな彼がいないことにヨモは問わずにはいられなかった。
「 実は、先輩とちょっとのことでケンカになって、先生に怒られているんですよ」
ジルの言葉にヨモは、なるほどと頷いた。
「 ロフド君はケンカッ早いからね…まぁ、次からは気を付けてと言ってたと伝えてくるかな?」
そう伝えます、とジルは苦笑した。
ジルにとって、ヨモは相談所みたいにのってくれる。勿論、それが本職ではない。だがヨモ自身も、彼らに興味を持っているらしい。それは人間性としての興味か、はたまた彼やその仲間達が個々に持っている力にか……。 別にそんなことは、聞いても仕方がない。いや、聞いても仕方がないことだと思う。 なら、他の誰かに相談しようと思う。だから今日は久々にここを訪れたが……
「 今日は、ティーアはいないんですか?来るんじゃ……」
ここを訪れた理由でもある、彼がいないことに今更だが気付いた。 最後まで言う前に、ヨモが話した。
「 ティーア君は、今日は来れないと電話が来てね…用事かな?」
と言い残して、店に新たな客が来たのでそちらの対応しに行く。
ジルはため息をつきながら、椅子を深く座り直した。そして、少し冷めきった珈琲を口にいれた。 珈琲の苦味が、口の中に広がる。といってもそれほど苦くなく、ヨモがジルにあわせた味にしてくれている。
( ……まぁ、そんな焦ることじゃないし)
そう心の中で呟いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
人通りがない、暗闇の路地裏。
「 はぁ……はぁ…」
暗闇に隠れるような服装をした、二人はどこかに隠れる敵と戦っている。
「 どこだ!?」
一人が誰もいない闇に問いかける。無論、答えは返ってこない。静かな静寂が続く。
「 …姉貴、ここは引こう。俺達じゃ無理だ」
もう一人が、小声で言った。
少し間が空いて、わかったと言い振り返った。
その瞬間、さっきまで無かった殺気が近くまで、強く伝わってくる。
「 気を付けて…!敵が近くに……」
しかし時すでに遅し。 見えない敵が、姿を表したと思いきや既に目の前までいた。
「 かぁっ……!」
敵が放った刹那に、体が切りつかれた。その瞬間、切り傷から血が吹き出る。
「 姉貴……!!」
そう叫んだ時には、倒れていた。 敵の姿は消え、殺気も無くなった。
「 姉貴!」
駆け寄り生きていることを確認した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時刻は十時前を指していた。営業時間が終わりに近づく。
ヨモは、最後の客を帰らせて、後片付けをしているところに……
「 ………んぅ……」
ジルは目を覚ました。どうやら寝てしまったらしく、肩まで毛布が掛かってあった。
「 お目覚めかな?」
起きたのに気付いたヨモは、ジルのいる席に来た。
ジルは、少し寝ぼけていたが……
「 …あぁ!ごめんなさい!!寝ちゃったみたいで…」
今の状況を把握したみたいで、謝った。
「 いや、大丈夫だよ」
ヨモは笑いながら言った。
「 速く帰してやるんだけとね。君達に興味があるだけ。君が迷惑だと思っていても、私はそうとは思わない、むしろ大歓迎だ」
ヨモが言っている事は、寝起きのジルには意味がわからなかった。ただ、彼なりの心の温かさはいつもと変わらない。
だから、信頼できる。
「 それに、ジル君の寝顔が可愛くてね。写真を撮ってしまったよ」
「 えええっ!?ちょっ、ヨモさん!!?」
前言撤回、この人ある意味怖い。そう思ってしまったジル。
「 いやいや……あまりにもね。撮っている時にティーア君が来たから焦ったよ」
「 えっ?ティーア、来たんですか?」
「 そう、隠したつもりなんだけど…彼、鋭くてね。バレてしまったよ」
ヨモの答えに、ジルはため息しかつけなかった。
「 そうそう、ジル君の寝顔の写真、あれティーア君に送っといたよ」
「 はあぁぁぁ!?」
ジル自信も出すほども無かった驚くほどに大声を上げたのにも関わらず、ヨモは続けた。
「 今頃、彼は驚いていることだろうねー。いや、面白がっていることだろうね。ふふ…」
「 ヨモさん……はぁ」
ヨモの行動に、ため息しかつけなかった。 そして、ジルが最も感じたこと。 それは…
「 ティーア、なんで来たんだろう…」
「 さぁ、私もわからんがこう言っていたよ」
『 いえ、ちょっと嫌な予感がしたので来たのですが…。何ともないですね。…ただの勘違いだったのかも知れません』
その時のティーアの言葉を一語一句、そう言ったかのように間違えずにヨモは言った。
「 …嫌な予感」
「 彼の勘は、時々当たるからね…もし本当だったら……」
その時だった。 ヨモの言葉を遮り、店の扉をドンドンと叩く音がした。
「 …僕が出ます」
ジルはそう言い、椅子から立ち上がりゆっくりと扉を開けた。
そこには…
「 テイス、イリス!?」
扉の前には、血だらけになったイリスと、彼女を抱えている弟のテイスがいた。 彼は、姉の血で血だらけになっていた。
「 !!ジル!姉貴が…姉貴が…!」
「 ヨモさん!!イリスが…!」
ジルの言葉に駆け寄ってきたヨモは、深刻そうな顔をした。
「 これは、病院に連れていった方がいい…。私の友達に、医者がいる。そいつに見てもらおう…」
「 分かりました…!テイス、止血をして少しでも状態を維持させよう」
「 …治るか、この傷…」
テイスの弱音にジルは叫んだ。
「 テイス!治るかじゃない、治させるんだ!僕達が出来ることをしろ!!」
それが最善の方法。 ――そして、これを境に次々に事件が起こるとはまだこの時、誰もわかっていなかった……
学生事件簿-2-へ続く